宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

「武富健治の世界」展関連トークイベント「マンガのデザイン−『鈴木先生』を中心に−」

 展覧会最終日を飾る、ボラーレ・関善之さんをお招きしてのトークイベント「マンガのデザイン−『鈴木先生』を中心に−」が1月29日の16時から開かれ、大盛況のうちに終了しました。


 米沢嘉博記念図書館2階閲覧室で開かれたトークイベントとしては今までで最高の80人のみなさんにおこしいただきました。40人入れば満員な感じの空間に、椅子は一回座ったら立てないレベルまでギューギューに詰めて、立ち見もいっぱいな状態になってしまい、同じ入館料をいただいているのに立ち見になってしまったみなさんには申し訳ありませんでしたが、関さんのすこぶる面白いトーク(とにかく話術のレベルがハンパないのです)のおかげで、笑いが絶えない、文字通り、面白くてためになるイベントとして、大いに楽しんでいただけたようです。
 イベント告知のエントリでもご紹介したように、ボラーレ(関さんと星野ゆきおさんを中心としたデザイン事務所)の仕事量はすごいので、業界内の知名度はすごいんですが、世の中的にはニッチなイベントなのは間違いなく、「それ行きたい!」と思って下さる方にきちんと告知が行き届くかどうかが重要だったんですが、フォロワー数4ケタの関さんが連日ツイートして下さり、関さんと親しいさらにフォロワーの多い漫画家さんが拡散に協力して下さったおかげで、ツイッターならではの、欲しい人にピンポイントで情報が届く告知になったことが、この盛況につながったのではと思います。
 つまりは、お招きしたゲストの方ご自身に広報してもらったおかげで盛況になったという話で、関さん、その意味でもありがとうございました!


 トークの内容は、ボラーレの仕事をほんとにざっとご紹介して、先日、打ち合わせの際にお邪魔して写真を取らせていただいた仕事場の様子をお見せした上で、まずは、「鈴木先生」の単行本をどんなふうにデザインしていったか、最初の案から最終形まで、どういうことを考えながら、また、編集者の染谷さん、作者の武富さんとどのようなやり取りをしながら、詰めていったかを、お話しいただきました。
 実はこの時、書画カメラの映像が投影できないという機材トラブル(というか僕のチェックミスで準備そのものがきちんとできてなかった)があり、僕が機材のケーブルをつなぎ直したりしてる間、20分くらいでしょうか、関さんと最前列に座っていただいた武富さんのやり取りでトークを展開してもらうという申し訳ない状態になったんですが、関さん武富さん、そしてさらに染谷さんにも時々入ってもらいながら、当事者ご自身で振り返っていただいたおかげで、帰って当初考えていたよりしっかり現場の仕事の過程を語っていただくことができました。
 こうしたトークは初めてというゲストの方にトークの冒頭で間を持たせてもらうというあり得ないことをさせてしまったわけですが、関さんの安定感たるや!あたかも段取り通りだったかのようにトークは進んだのでした。幸い、その話の途中で機材はつながったので、お持ちいただいた初期段階の単行本デザインのラフなどをお見せすることはできました。
 トークの後半は、さらにボラーレの仕事全般に話を広げて、関さんにご用意いただいた写真をもとに、いくつかのカテゴリーに分けて、ボラーレの仕事の特色、デザインする上で心掛けていることや、デザインの発想源と遊び心などについて、具体例に沿ってお話しいただきました。内容については、おいで下さったたくさんのみなさんがツイートして下さっているので、ツイッターハッシュタグ「#鈴木関」を検索するか、関さんご自身のアカウント@seki_yoshiをご覧いただければと思います。

 
 マンガ本やマンガ雑誌の装丁って、そのデザインの過程にクリエイティブな面白さがあるってこと自体に多くの人が気付いてなくて、気付いてる人にとっては全然情報が足りないトピックだと思うんですよね。
 当日の来館者のみなさんの業界人率はかなり高かったと思うんですが、一方で、そっか、そういう面白さがあるのか!って気付いて下さった方も多かったようで、どちらの層のみなさんにも楽しんでいただける、発見の多いトークになったと思います。
 感想ツイートして下さってる皆さんもおっしゃってる通り、知らない人、興味をまだ持ってない人にも分かりやすく面白さを伝える、関さんのプレゼンテーションの力があってのことだったなと思います。そしてそのプレゼンテーションの力が、ボラーレのデザインの力と直結してる感じも、伝わったんじゃないかと思います。
 ただただシックな感じだったり、おしゃれにスカした感じだったりするのではなく、基本はすっきりしたデザインなんだけど、必ずどこかに「フック」と遊びが入ってて、それもこれ見よがしに遊び倒すって感じじゃないっていうその辺の加減が、絶妙なんですよね。
 白地にメインの鈴木先生のイラスト、背景に群像図、丸ゴシックのタイトルロゴの「木」だけが少しずれてて、その凹みの部分に、武富さんが選んだ名言が原語で入るという「鈴木先生」の表紙デザインには、そうした関さんのセンスが集約されてるなあと思いました。
 これですね。

鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)

鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)


 「鈴木先生」のタイトルロゴは、一番最初のラフの段階では明朝体だったんですが、素朴に考えれば明朝体ですよね。それを今の丸ゴシックにしたのが、作品のプレゼンテーションという意味ではかなり大きかったと思いますし、武富さん自身、このロゴになったのは重要だったと、当日話されていました。
 トークの終盤では「装丁・デザインはマンガの旗振り役だと思う」(←若干不正確)という名言も飛び出しつつ、質疑応答も、良いやり取りが展開しました。
 そしてトークの最後には、なんと、普通のマンガ本装丁のパターンでやるとこうなるという形での「鈴木先生」を2パターン、1巻と2巻の2冊ずつ、実際に作って持ってきて下さってたのがお披露目されて、武富さんにプレゼントされるというサプライズが。何それニクい!ニクすぎる!写真撮らせてもらったので、あとで関さんに聞いて、よければ追加でアップさせてもらいます。

 
 トーク終了後は、1階展示室で第4期、というか武富展全体の見納めを関係者一同で。



 記念写真も撮ったり。
 その後居酒屋で懇親会、カラオケで二次会。カラオケは、僕は終電でおいとましたんですが、武富さんヤマダさんたちは始発まで徹夜で盛り上がった模様。
 

 で、翌30日は、早速展示の撤収作業。優秀なるスタッフのみなさんがてきぱきと展示品を引き上げ、どんどんカラになっていく展示ケースに一抹のさみしさを感じたりもしたんですが、いったん作業室に引き上げた資料を、一点一点借用品リストと照らし合わせながら借用品用の箱に戻していく作業をヤマダさんとやっていると、むしろ良い展覧会をきちんと事故なく終わらせられた充実感もひしひしと感じることができたのでした。


 現役バリバリの作家さんの展覧会としてはありえないくらい作家さんご自身の協力を得られたおかげで、小さいながらも本当に密度の高い展示ができ、キュレーターとして幸せな思いをさせてもらいました。
 会場に置かれた感想ノートやツイッターでの感想ツイートなどでも、届いた人への届き方がほんとに深いことがわかって、うれしかったです。
 また、3回のトークイベントを通じて、この展覧会が、人と作品、人とミュージアム、人と人の、この展覧会がなければありえなかったような出会いの場・メディアになれたことも、そういう場を作るのがほんとに好きな人間としてはうれしかったです。僕自身、それこそこの展示で初めて関さんやたくさんの方と、お会いしお話する機会に恵まれました。
 武富さんはじめ、関わって下さったみなさん、見に来て、聞きに来て下さったみなさん、本当にありがとうございました!