宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

トークイベント第2弾「『鈴木先生』の育て方」

【19日の23時台に書いています】


 17日の16時から、「武富健治の世界」展関連トークイベントの第2弾として、米沢嘉博記念図書館2階閲覧室で、「『鈴木先生』の育て方」が開かれました。
 講師は、『漫画アクション』で「鈴木先生」を担当した編集者のお二人。初代担当で現編集長の染谷誠さんと、二代目担当の遠藤隆一さんです。不肖ミヤモトが聞き役として進行させていただきました。
 まずは、「鈴木先生」が持ち込まれたときの作品と作者の印象から語り始めていただき、具体的な制作の過程で担当編集者としてどのように関わっていた・いるのか、作者とのやり取りが印象に残っている回、作中の好きなエピソード等々について、お二人ならではの視点から語っていただきました。いやー、面白かったです。
 講談社に持ち込んで不採用、小学館に持ち込んで不採用だった「@げりみそ」のエピソードを拾って、武富さんの作家性を存分に開花させた染谷さんは、こうの史代さんの「夕凪の街、桜の国」を世に送り出すなど、業界では有名な名編集者なのですが、その作家の一番いいところを見抜く力がやっぱりすごいな、というのが言葉の端々から感じられました。
 「@神の娘」編が始まったところで、染谷さんが編集長になった関係で担当を引き継がれた遠藤さんも、共通体験である仮面ライダーシリーズなどの解釈から、武富さんの「歪んだ天才」(遠藤さんによる武富さんの第一印象)としての特質にすぐ気付かれたとのことで、やはり作家のよさを見つけて伸ばすことに長けた方だなあという印象でした。
 

 たくさん具体的な興味深いエピソードが聞けたんですが、いずれ活字にしてほしいレベルのお話ばかりでもったいないので、ここではさわりだけにしておきますが、一番面白かったのは、セリフの文字(ネーム)を打ち込むときの話でした。
 マンガの製版が、以前と違ってデジタル入稿になって、原稿をスキャンして、セリフの文字(ネーム)はデータで重ね合わせる形になったため(以前は写植を原稿に編集者が切り貼りしていました)、切り貼りの作業の代わりに、セリフをパソコンで打ち込む作業を編集者がするようになっているのだが、「鈴木先生」のネームを打ち込む作業は、エピソードによってはほかの作品の倍以上かかる(笑)。で、時間かかって大変と言えば大変なんだけど、あの膨大なセリフを延々と打ち込んでいると、キャラの脳内をなぞり続けるようなトランス状態になって来るんですよ!っていうお話でした。染谷さんがして下さったんですが、遠藤さんもうなずいておられました。
 確かに例えば「鈴木裁判」などのセリフを全て自分でワープロで打つっていう作業を考えると、そのトランス状態は想像がつきます。が、これは、実際に作業をしていなければまず出てこないお話ですし、製版の工程のデジタル化によって、かえってこうした写経のような体験を編集者がしているというのも、すごく面白いお話ですよね。実際、会場でもこの話はすごくウケていました。漫棚通信さんとかもこういう話好きそう。
 会場には武富健治さんご本人もいらしていて、時折お二人とやり取りして下さったので、よりお話が立体的になりました。武富さんありがとうございました。


 というわけで、現役バリバリの作家について、現役バリバリの編集者が、当の作家を前にして語るという、よくよく考えるとなかなか例のないトークイベントは、期待通り大変充実したものになり、私自身、大満足させてもらいました。打ち上げも二次会のカラオケまでお付き合いいただき、大いに盛り上がりました。染谷さん、遠藤さん、本当にありがとうございました!


 次回は急きょ決定した三つ目のトークイベントを会期最終日の1月29日に行います。マンガ本・マンガ雑誌のデザインを数多く、ほんとに数多く手掛けているデザイン事務所「ボラーレ」のデザイナー・関善之さんに、「鈴木先生」の単行本のデザインから語り起こしてマンガのデザイン全般について、お話していただきます。これはほんとにレアです。乞うご期待!


http://d.hatena.ne.jp/yonezawa_lib/20111216#1324010114