宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

さて今度は

鷲谷花id:hanak53)さんの「TOO LATE THE HERO」です。なつ漫好きのみなさんの間ではよく知られていると思われる古沢日出夫ですが、「冒険ゴット」となると、どうなんでしょうか。こういう作品に注目して、「戦時期のヒーロー」とも「占領期のヒーロー」とも異なる、「戦後のヒーロー」像の模索とその(誠実なる)挫折を描き出して見せるあたり、さすがです。僭越ながら、僕の松下井知夫論「見えることと見えないこと」(『新現実』Vol.2)と併読していただければ幸いであります、と申しておきます。松下もまた、戦時期から占領期を経て「戦後」へとわたっていく中で、マンガを描き続けることの困難と全身で向き合った作家でした。

新現実 Vol.2 (カドカワムック (178))

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続いては津堅信之さんの「アニメが先かマンガが先か」ですが、これは率直に言って、少し食い足りない印象でした。マンガとアニメの関係史を概説的に押さえた上で、手塚治虫宮崎駿押井守を例に、それぞれの作家がマンガをどうアニメ化するか比べていくんですが、その作家ごとの違いの分析が、「宮崎色に染まりきっていて」といった言い回しに見られるように、ちょっと印象批評的なんですよ。「アニメというメディアの」「匿名性」とか「人間性」といったそれなりに魅力的な概念も、十分説明されていないと思います。
日本アニメーションの力』でも『アニメーション学入門』でもそうですが、津堅さんの書き方は、まず総論を押さえてから各論に入る、という手順になっています。そのオーソドックスさは、今のマンガ論やアニメ論の中では結構貴重なものだと思うんですが、今回のような短い論考では、まず一つの具体例の細部にぐいっと食い入って、各論から総論へと文脈を広げていくような書き方も試されてみるといいと思うんですよね。津堅さんにはこれからもっとがんばっていただきたいので、あえて蜀を望むようなことを書いてみました。
日本アニメーションの力―85年の歴史を貫く2つの軸

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新書291アニメーション学入門 (平凡社新書)

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