宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

畑中純さんのご冥福をお祈りいたします。

 漫画家の畑中純さんが今日13日未明、お亡くなりになりました。同じ東京工芸大学のマンガ学科で教えている伊藤剛さんによれば、昨日も「通常どおり三年生のゼミの指導をされて」いたとのこと。
 以前一度倒れられたこともあり、その後も病気との付き合いは続けておられたようですが、お仕事も普通に続けておられたわけですから、本当に急なことで、大変動揺しています。


 私は北九州市立大学で勤めていた時、ちょうど北九州市が漫画ミュージアムを作るという計画が動き出し、その基本コンセプト検討委員会に、参加した際、畑中さんと同じ委員としてご一緒させていただきました。
 「まんだら屋の良太」はNHKで杉本哲太主演でドラマされたとき(1986年の2月だそうですから中3ですね)に知って、まずドラマを面白いと思い、そこから原作のマンガを読んだんだと思います。


 じかに接する畑中さんは、本当に作品の雰囲気そのままというか、気さくでざっくばらんで、下世話なもの、俗なもの、粗暴なものを愛しつつ、繊細で知的でもあり、すごく優しい気配りができる方で、多くを語らずとも分かってくれる信頼感が絶大な方でした。この訃報に触れた吉田戦車さんが痛切なツイートをされていますが、本当に多くの、多種多様な漫画家さんたちに慕われ、頼られていた方でした。


 作品の世界の多面性そのままの人だったと思います。単に「性にもおおらかな日本の土俗的な世界」をただ手放しで礼賛するのではなく、それを対象化する視線には文学的・都会的なものが含まれており、と同時に、欲望に忠実な人間たちの世界が、幻想の世界にもつながっている、あの世界ですね。
 それは多分、小倉、あるいはもう少し広げて北九州という土地の、都会性と地方性、開放的な部分と閉鎖的な部分が絶妙なバランスで共存しているあり方とも密接に結びついていたと思います。だからこそそこには、その奥に九鬼谷という架空の温泉街もまた存在できたのだと思います。


 基本コンセプト検討委員会には、漫画に対して強い警戒感をお持ちの方も委員として入っておられました。市としては、あらかじめ、ありうべき批判をクリアしておきたいということで、意図的にそうした方に入ってもらっていたと思います。
 その中で、そうした方の意見に対して、漫画という表現の持つ、性も暴力も人間を描く上で無視できないテーマとして取り込んだ力を、滅菌して、人畜無害な、お母様も安心、みたいな施設にするのでは意味がないという趣旨のことを、ときにはやわらかく、ときには理路整然と、そしてときには(おそらく意図的に)感情的に、繰り返し主張して下さっていました。
 僕のような、どこの馬の骨ともしれない若い大学教師が同じことをどれだけ言っても出ない説得力が、畑中さんの一言一言にはこもっていて、本当にありがたかったです。一度、そういう(「健全な」漫画だけ集めたような)施設にするというなら自分はこの委員会を降りると啖呵を切られたことがあって、その時は本当にしびれました。この人がいてくれてよかったと、心底思いました。


 基本コンセプト検討委員会の仕事以外では、2009年に、漫画ミュージアム設立に向けてのプレイベントとして企画された、長谷川法世さんとの対談の司会をさせていただいたのが、自分にとって一番大きな仕事でした。
 どんなイベントだったかは、お知らせのエントリと、終わった後のレポートのエントリをこのブログで写真入りで書いていますので、よかったらご覧ください。


http://d.hatena.ne.jp/hrhtm1970/20090119/1232353575


http://d.hatena.ne.jp/hrhtm1970/20090210/1234198551


 いつも北九州のことを思い、その設立を応援して下さっていた北九州市漫画ミュージアムは、8月にオープンの予定です。
 あと2カ月!たった2カ月だったんですよ…。見てほしかったです。一緒に喜びたかったです。もう、何なん、これ。内記さんといい、畑中さんといい、たまたま自分が準備に関わっている施設にご協力いただいていた方が、その完成の前にお亡くなりになってしまう。しかもこんな相次いで。
 先週末、内記さんのご葬儀が終わって、その翌日にマンガ学会の理事会があって、自分の誕生日もあったので、気持ちを切り替えて、今週から滞っていた来週の大会の準備を急ピッチで進めようとしていたところに、この訃報だもんなー。
 別に大学の仕事は何も減らないわけだし、自分の自宅の引っ越しだって今週末にあるので、もはや心折れたり、泣きながら「まんだら屋の良太」を読み返したりしてる時間は全くないので、気持ちをしっかり持ってがんばるしかないんですが。
 内記さんも畑中さんも、存在感が強烈な人だったから、いつでも頭の中でその顔と声が再生できちゃうんですよね。で、それをついしてしまうと、泣けてきちゃうんですよ。どうしよう、これ。って言われてもって感じでしょうけど。
 とにかくお二人とも、俺が死んだからって泣いてんじゃないよって方なので、とにかく、今、自分がやるべきことをやるようにします。取りあえず、今日の授業は、ちゃんとやりました。むしろいつもより、ちょっとだけいい感じで出来た気がします。


 北九州市漫画ミュージアムは、今、その常設展と、最初の企画展の準備を急ピッチで進めているところです。私も展示の解説文のチェックという形で、ささやかながらお手伝いをさせてもらっています。このミュージアム畑中純という唯一無二の作家の魅力を、少しでも多くの方に伝える役割を果たせるよう、さらに努力・工夫をしたいと思います。
 また、もちろん、一研究者としても、さまざまな機会に、畑中さんの魅力を知ってもらえるよう、努力していきたいと思います。というか、そういう形でしかご恩に報いることができないので。


 心折れないように、とか言いながら、延々と時間気にしないでこんなエントリ書いちゃってることを見ても、内記さん、畑中さんと続いたことで、かなり取り乱していることは明らかですね(笑)。だって悲しいだけじゃなくて、悔しいってのまで入ってんだから、しょうがないじゃん。でももうやめどきですね。仕事します。


 土曜日にお通夜、日曜日に告別式があるとのことです。


●通夜
・日時:6月16日(土)18:00〜19:00
・場所:「セレモニアル調布」(調布駅東口)調布市布田2‐34‐6
 042(499)5555
 http://www.ceremony-hall.co.jp/chofu/

●告別式
・日時:6月17日(日)10:00〜
・場所:「セレモニアル調布」(調布駅東口)調布市布田2‐34‐6
 042(499)5555
 http://www.ceremony-hall.co.jp/chofu/


 畑中純さんのご冥福をお祈りいたします。