宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

北京大学・明治大学「マンガ・アニメ文化先端文化講座・手塚治虫」に参加してきました



 遅くなってしまいましたが、10月23日(日)、北京大学で開かれた「マンガ・アニメ文化先端文化講座・手塚治虫」に参加してきましたので、簡単にご報告を。
 この講座は、明治大学北京大学の連携の一環で、明治大学国際日本学部と北京大学国語学院日本言語文化学部の共催で行われているもので、去年5月の幾原邦彦さんをお招きしての第1回、同11月の富野由悠季さんをお招きしての第2回に続く第3回になります。
 明治大学広報による公式レポートはこちら。


http://www.meiji.ac.jp/koho/news/2011/6t5h7p000001jqjw.html


 上のレポートにあるように、23日の13時から17時までの予定が、18時まで延長になる長丁場の講座になりました。北京大学は土日も、そして夜間も授業があるとのことで、ほとんどの学生が学内で暮らしており、夜の授業が終わると食堂が閉まってしまう関係で、夜の授業がある学生は17時を過ぎてから少しずつ帰って行ったものの、8〜9割くらいの学生は最後まで残ってくれたのではないでしょうか。



 今回は第1・2階よりは狭めの教室を使って、人数制限もかけて、それでも当日開始時には教室からあふれる学生も結構いる大盛況でした。



 まずは藤本由香里さんによる紹介の後、手塚治虫の長男でビジュアリストの手塚眞さんによる講演。御子息として、父としての手塚治虫を語るという側面も上手く織り交ぜつつ、マンガ家・手塚治虫の仕事の総論としても非常に分かりやすくまとまった内容のお話でした。
 しかも、きちんと図版を見せながらの表現の分析にしっかり時間を割かれていて、さすが映像の仕事をずっとされているだけあって、素晴らしい分析でした。写真は、「ジャングル大帝」の一場面を例に、コマの中に含まれている時間の幅について語られているところです。



 休憩をはさんで、続いては再び藤本由香里さんによる紹介の後、手塚プロダクション社長の松谷孝征さんの講演。手塚治虫が最後に訪れた外国が中国であったことから語り起こし、アニメーション制作者としての手塚の仕事や、手塚プロダクションが出資して設立されたアニメーション制作会社「北京写楽」などについて語られました。


 で、この時点ですでに予定の17時を過ぎていたんですが、予定のプログラムは全てやるということで、私、ミヤモトによるまとめ的なレクチャーを20分余り。
 去年から日本各地を巡回している展覧会「osamu moet moso」の図録に収録されている、いとうのいぢさんなど中国でもよく知られているイラストレーター・漫画家さんによる手塚キャラのイラストをご紹介しつつ、現代のクリエイターにとって、手塚治虫のどこが「萌え」要素なのか、という問題提起をした上で、手塚にとって重要な概念であるメタモルフォーゼ=変態にふれ、世界・人間・自我の自明性の動揺という手塚作品に頻出するテーマについて、「来るべき世界」などを素材にしつつお話したんですが、先ほど触れたように、夕食のために教室を出ていく学生さんたちが目立ち、しかも僕はその時点でそういう事情があることを知らなかったので、「うわ、時間オーバーしてる上に誰こいつ?ってやつが出てきて小難しい話し始めたよって思われてるに違いない」と内心かなりあわててしまい、通訳をしてくださった北京大学の古市雅子先生にお渡ししていたレジュメに書いた以上の補足の説明などを中途半端に盛り込んだために、かえって訳しづらい感じになってしまい…というスパイラルにはまってしまったのでした。
 せっかく、「osamu moet moso」の紹介ではめちゃくちゃウケてたのに、後半急にややこしい話になったって印象を与えてしまったようで、もともと通訳はさんでの講演で20分しか持ち時間ないのは分かってたわけだし、こういう時間オーバーした状況で話すことも想定しておくべきだったので、非常に悔しい思いをしました。
 で、その後さらに30分ほど眞さん松谷さんへの質疑応答の時間が持たれ、そこでも充実したやり取りがあって、講座は終了したのでした。
 ま、僕のとこはともかく、全体としてはほんとに大成功と言ってよい内容だったのではないでしょうか。受講生のみなさんは男女比が6対4くらいだったでしょうか。みなさんほんとに手塚についてよくご存じで、特に眞さんのお話に対するリアクションは非常によかったです。



 当日の会場設営・運営などは北京大学で二番目に大きい、800人だったかのメンバー数を誇る動漫サークルのみなさんが支えて下さったようです。上はそのみなさんと眞さんたちの記念写真撮影の様子です。
 

 
 宿泊は北京大学内にあるホテルでした。大学が業者に委託して運営されているとのことでしたが、朝食バイキングのクオリティが高くて、毎朝楽しみでした。
 翌24日は、夕方の飛行機の時間まで、古市さんのご案内で、手塚眞さんのリクエストだった雲南料理のお店に、藤本由香里さんと一緒におともさせていただきました。



 雲南料理のレパートリーには虫の料理があるとのことで、眞さんがそれは食べないと、と注文。写真のような、カラッと揚げた虫さんたちが盛り合わせで出てきました。
 日本でも居酒屋で出る小海老の揚げものみたいな食感とお味で、スナック的にどんどん食べられたので、眞さんはもちろん、僕も藤本さんもむしゃむしゃ食べてたら、北京在住歴の長い古市さんに驚かれてしまいました。
 


 芋虫系のとハチとかヤゴとかがありましたが、ま、確かに見た目はそれなりにインパクトありますね。でもほんとに食べやすかったんですよ。眞さんなんか、むしろ軽過ぎて滋養がない感じがするっておっしゃってたくらいです。
 あ、眞さんもご自身のブログでこの日のことを書かれています。講演の内容には全く触れず、タイトルも「北京の虫」(笑)。


http://tzk.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-30fd.html


 僕も、自分が今「手塚治虫先生の御子息と虫を食べている」というシチュエーションに、何だかいろいろな感慨を味わわせていただいたのでした。
 でもですね、虫料理はあくまでおつまみ的なものなので、その他のラーメンくらいの太さのビーフンとか、おいしい料理がたくさんあって、普通にごちそうとして大満足だったんですよ。



 確かに味付けも少しずつ知らない感じで、でも出てくるものみんなおいしかったです。お店も代官山っぽいおしゃれエリアにあって、内装もおしゃれで、これは人気出るわと思いました。



 僕がデザートに頼んだヤクのヨーグルト。これもマイルドでおいしかったです。



 すごくゆっくり食事と会話を楽しんだ後、小一時間ほど、「798芸術区」に連れて行ってもらいました。大小様々のギャラリーやアトリエ、カフェにショップが集まっていて、僕としてはこれは一日いても飽きないなという感じでした。




 いい感じですよね。



 でもいろいろありすぎて、どこで何がやってるのかもよく分からない中、なにげなくみんなで入った大きめのギャラリーでやってたのが、この老夫婦の展覧会。解説を読んでもらうと、なんと二人とも1930年代の上海で漫画家として活躍し、その後、画家として、長く活動した夫婦とのこと。しかもどちらかは90歳を超えてまだご存命とのこと。
 展覧会では漫画作品の展示はありませんでしたが、何気なく入った唯一の展覧会がこれっていうのが、また何か漫画の神様のお導きっぽくてよかったです。


 というわけで、自分のレクチャーのためのパワポを眞さんが講演されている間まだ作っているというようなギリギリのスケジュールの中で行った弾丸ツアーではあったんですが、非常に充実した時間を過ごさせていただいたと思います。
 全面的にお世話になった古市雅子先生を始め、北京大学のみなさん、そしてお忙しい中素晴らしい講演をして下さった手塚眞さんと松谷孝征さんに改めてお礼を申し上げます。ありがとうございました!



 あ、中国国内の反響については、古市先生から「今回は、ガンダムの時のようなコアなファンがブログをアップするというよりも、国内最大手のポータルサイト「新浪」の記者が書いたレポが多くのサイトに転載されていました」とのことで記事を翻訳したものを送っていただきました。元記事のURLはこちら。


http://comic.sina.com.cn/n/2011-10-25/14352514.shtml


 「松谷孝征氏ともう一人の先生の講座」については「私の能力の限界もあり、省略します」と最後に書かれているようです。
 「多くのサイトに転載」されたものの中では、以下のサイトが一番ちゃんとしてるっぽいのでリンク貼っときます。


http://www.hexieshe.com/634627/


 
 コメント欄に「宮本大人」の文字があって、どうもネガティブなことを言われてるっぽいんですが(笑)、中国語は全く分からないので、分からないままにしておきます。→【追記】古市先生から「記事についてるコメント全然マイナスじゃないですよー。一番専門的だったって書いてあります。「名前すげー」的なことは書かれてますけど」と知らせていただきました。よかったー。名前は「大人(ターレン)」って中国語では立派な人物につける尊称なので、それを自分の名前にするとはって、いろんな場面でウケてたんですよね。