宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

大阪府立国際児童文学館所蔵資料の内訳について

 マンガ学会からの要望書でも述べられている、国際児童文学館所蔵のマンガ関連資料の規模の大きさについて、具体的な点数を挙げておきたいと思います。
 残念ながら館のホームページには載っていませんが、館報である『大阪府立国際児童文学館REPORT』の2007年8月発行分に掲載されている、2006年度末現在の所蔵資料内訳を、同館の許可を得てここに転載させていただきます。『REPORT』にはわかりやすい円グラフもついているのですが、手元のコピーの状態が良くないので、とりあえず数値データだけ書き写します。


【2007年3月末現在の所蔵資料】
所蔵資料総点数 697055

図書      326141
(和図書) 293331
(洋図書) 32810


雑誌 246119
(和雑誌) 231538
(洋雑誌) 14581


その他 124795


 これが基本的な分類に沿った内訳です。「その他」には絵本原画などのほか、街頭紙芝居約4000点(!)という、マンガ研究にとっても戦後の大衆文化・児童文化研究にとっても極めて貴重な資料群も含まれます。
 次に、図書と雑誌、それぞれについてそのパーセンテージが示されています。


図書(326141点)
一般書 13%
読物 38%
絵本 30%
マンガ 19%


雑誌(246119点)
一般誌 47%
紀要 6%
児童誌 32%
マンガ 15%


 パーセンテージは概数ですので完全に正確ではありませんが、これに沿って、「マンガ」に分類されているものの点数を、小数点以下を切り捨てて算出すると、図書のうち61966点、雑誌のうち36917点が、「マンガ」となり、合計98883点となります。およそ10万点といっていい規模です。
 しかし、マンガ学会からの要望書でも述べられているように、昭和30年代まではマンガ専門誌と呼べる雑誌はほとんどなく、いわゆる少年少女雑誌にマンガも活字の読み物も共存していたわけです。
 したがって、上の「雑誌」のうちの「児童誌」の大半は、マンガも掲載しているものと考えることができます。
 実際、館の専門員の方におたずねしたところ、上記の分類で「マンガ誌」とされている雑誌の定義は、「ほぼすべての内容が、マンガで占められている資料」ということになっており、「マンガも載っているが、読み物がかなり掲載されている雑誌」は「児童誌」としているとのことでした。例として次の4誌の分類を教えて下さいました。


「少年クラブ」「少年」→「児童誌」
「なかよし」「少年サンデー」→「マンガ誌」


 専門員の方によれば、「児童向けの雑誌の場合は、むかしからほとんど何らかの形でマンガが掲載されていますので、(1ページだけにしても)その意味ではほとんど」の「児童誌」がマンガ関連資料ということになるとのことでした。これに即して「雑誌」資料全体の約45%が「マンガ掲載雑誌」と考えれば、点数は110753点となり、図書と合わせると172719点となります。
 国会図書館を除けば、漫画資料の所蔵点数で群を抜いているのは京都国際マンガミュージアム現代マンガ図書館ですが、京都の所蔵資料は、ミュージアムホームページによれば約20万点、現代マンガ図書館の所蔵資料は約18万点です。


http://www.kyotomm.com/about.html
http://www.naiki-collection.jp/index.php?%BF%DE%BD%F1%B4%DB%BE%D2%B2%F0


 京都は明治以来の風刺漫画関連資料も含めての点数ですし、現代マンガ図書館は青年・成年向けのものも含んでの点数であり、また戦後の資料にほぼ限られています。その意味で、青年・成年向けを除いた、児童・少年・少女向けのストーリーマンガ関連だけでこれだけの資料を有し、戦前・戦中の国会にもほとんどない単行本・雑誌資料を多数有する児童文学館の所蔵資料がいかに大規模かつ貴重なものかお分かりいただけるかと思います。
 また、以前のエントリでも述べましたが、児童文学館の場合、児童向け出版をめぐる様々な関連資料が極めて充実しているので、『りぼん』でこういうマンガが連載されていた頃、『詩とメルヘン』はどんな誌面だったんだろう、とか、『少年倶楽部』で「のらくろ」が連載されてた頃、児童文学評論の載っている教育雑誌ではどんなマンガ批判が展開されていたんだろう、といった研究が、容易にできるようになっており、約70万点の所蔵資料のほぼすべてが、潜在的に「マンガ関連資料」となりうる性格を持っているのです。
 改革プロジェクトチームによって資料の統合先として提案された府立中央図書館には、おそらく、一度にこの70万点の資料を収蔵し、現在と同じ保存状態を保ちつつ、閲覧・複写にも供する取り扱いをしていく余裕はないと思われます。特に、マンガ関連の資料は総合的な公立図書館では管理運用上の問題がいくつも起こることが考えられ、散逸・廃棄・死蔵等の危険性が高まります。現在の指定管理者である財団法人大阪国際児童文学館は廃止するという案ではなおさらです。現在の万博公園内の施設、財団を含めて、現状を維持した上での、所蔵資料のより有効な活用を考えていくべき理由がここにあります。
 

 『REPORT』には2007年度中に受け入れた資料のうち、寄贈分と購入分の内訳も示されています。


【2006年度増加分】
図書       9799
(寄贈図書) 4171
(購入図書) 5628


雑誌      6031
(寄贈雑誌) 4606
(購入雑誌) 1425


その他    256
(寄贈その他) 176
(購入その他) 80


寄贈計 8953
購入計 7133


 寄贈資料の1点当たり平均価格は館の方でも把握していないそうなので、仮に700円とすると、年間約626万円相当の資料が寄贈されていることになります。児童文学館をめぐる一般の方のネット上での反応を見ていると、「署名を集めるなら寄付を集めろ」といったものが目立つのですが、資料の寄贈という形で、出版業界からはすでに毎年かなり多大な寄付が得られていることがお分かりいただけるかと思います。それはひとえに館の活動の専門性に対する信頼によるものであり、これが府立図書館に統合されるとおそらくその信頼も失われ、一気に年間数百万円単位の寄付が失われることになりかねません。ここにも児童文学館を独立した施設・組織として維持する必要性があります。
 またついでに申し述べておけば、三万八千を越える署名も、著名文化人による要望書の提出も、館の存在意義の全国規模での広報活動と考えれば、その宣伝効果を金額に置き換えれば相当なものになると考えられます。うがった見方をすれば、橋下知事は、多くの人々に貴重な時間を割いて無償で府立の施設の広報活動に貢献させることに成功したとも言えるでしょう。
 私としては、今回限りにならず、それこそ今後も持続的に、児童文学館の広報活動に無償でできる限りの貢献をしていきたいと思っています。それに賛同してくれる人々も少なくないはずです。そこから、さらに、館の存在を府民により広く深く知ってもらい、より多くの人々、子供たちに利用してもらえる施設にしていくこともできると思っています。
 ということで、今日はこの辺で。
 第二次署名の締め切りが迫っています。ぜひ、ご協力願えればと思います。下記をご覧下さい。


http://www.hico.jp/