宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

大阪府立国際児童文学館の閉館にあたって。

 大阪府立国際児童文学館は、2009年12月27日を最後に、事実上、閉館になりました。今後は、府立中央図書館への資料移転のための作業が進められて行きます。


 僕は結局、閉館日が決まって以降、行くことはできませんでした。スケジュール的に難しかったのも事実でしたが、駆け込み入館で非日常的な状況になることは分かっているところに、自分が一日だけ行くことにどういう意味があるのか、という疑問をぬぐえなかったことが、スケジュールなんか知ったことか、という気持ちより大きかったということかもしれません。


 27日の様子については、「のりみ通信」さんがまとめられています。

 「さよなら国際児童文学館
 http://norimi.blog45.fc2.com/blog-entry-490.html

 向川館長の涙ながらのあいさつ、そしてその後の、あえていつも通りの明るい声で来館者を送り出す職員のみなさんの様子を捉えた動画は、胸に迫るものがあります。
 子供に向けて出されたもの、子供が現に接してきたものは、特定の時点の特定の限られた価値観で優劣を判定せず、分け隔てなくすべて収集・保存し、後世に伝えることが、子供の未来への貢献になるのだという館の理念を、信じてまっとうされてきたからこその、「再生」という言葉を含む館長のあいさつであり、再会を期するかのような明るい「よいお年を」の声だと思います。
 その動画の下の方に写真で掲げられた「閉館中 またきてね」のかけふだにも、そうした信念と願いが込められている気がします。


 のりみ通信さんもまとめられていますが、いくつか漏れもあるので、マスコミ各社の報道をまとめておきます。

毎日新聞国際児童文学館:27日閉館へ 財政再建の一環で 大阪」

 大阪府財政再建の一環で来年3月末での廃止が決まった府立国際児童文学館吹田市)が、27日を最後に閉館する。子ども向けの絵本やマンガ、原画などの所蔵資料約70万点は府立中央図書館(東大阪市)に運ばれて保存され、来年5月ごろから一部資料は公開される。

 国際児童文学館は、児童文学研究者の鳥越信さん(80)の所蔵資料12万点を元にして84年に開館。資料全体の約6割は研究者や出版社からの寄贈だが、廃止・移転に反対する作家や研究者、出版社側から移転後に寄贈が受けられるかは不明だ。

 府は「3年程度の移行期間を経て、中央図書館司書による新たなマネジメント体制により、子どもの読書推進を強化する」としており、児童文学の知識のある専門員は大半が解雇されるため、これまで実施してきたワークショップなどの企画の運営も困難になる。また同館をめぐっては、鳥越さんらが寄贈した資料の返還を求めて大阪地裁に提訴している。【手塚さや香

毎日新聞 2009年12月26日 14時22分
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20091226k0000e040059000c.html

共同通信「大阪の国際児童文学館が閉館へ 財政再建策で図書館と統合」
 大阪府立国際児童文学館(同府吹田市)が28日に閉館する。来年3月末の廃止を前に、約70万点の資料を統合先の府立中央図書館(同府東大阪市)に移動する作業が始まるためで、27日の営業が最後になる。

 閉館は橋下徹知事が財政再建策として中央図書館への統合を表明したことがきっかけ。アニメ映画監督の宮崎駿氏らが存続を求める要望書を提出し、府議会も一度は存続の請願を採択。だが資料の保存などへの努力を知事に呼び掛ける付帯決議を付けた上で、今年3月に廃止案を可決した。

 蔵書を引き継ぐ中央図書館は来年5月ごろから複写など利用者向けサービスを再開する予定。ただ文学館が取り組んできた児童文学の研究は続けず、職員の多くは解雇される。府は現地存続と比べた場合の累積支出について、2019年には人件費の削減などで約4億6千万円少なくなると試算している。

 文学館に書籍類を寄贈し、現地での存続を求める児童文学者の鳥越信氏は「研究機能がない図書館に移れば資料の価値が失われる」と指摘。鳥越さんを含めた文学者らは寄贈した書籍類の返還を求め、大阪地裁に提訴し係争中だ。

2009/12/26 17:07 【共同通信
http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009122601000333.html

産経新聞国際児童文学館きょう27日一般開館の最終日」

 児童書など約70万点を所蔵する大阪府立国際児童文学館吹田市)が、府の財政難による見直しで28日に閉館する。蔵書や資料を統合先の府立中央図書館(東大阪市)に移すためで、27日が最後の一般開館日となる。ただ、建物を撤去するにも約2億円の費用がかかり、閉館後の施設の扱いは決まっていない。橋下徹知事は図書館書庫として活用する考えも打ち出したが見通しは不透明。世界の児童書を集めた名物施設は数々の問題を抱えたまま、幕を下ろすことになった。

 国際児童文学館は昭和59年に開館。明治時代から現在までの児童書に特化した研究施設だったが、府の財政再建策の一環として統合、約4億6千万円の財政効果が見込まれている。

 施設は当初、撤去される予定だったが、約2億円の費用がかかることもあり、一時は府公文書館大阪市住吉区)を移転させる案も浮上。橋下知事は今月中旬、図書館で貸し出し実績の少ない本の収蔵場所にする独自案を表明したが、所管する府教委も「寝耳に水」の提案だったといい、まだ方向性は定まっていない。

 一方、移転先の中央図書館は書庫を改装し蔵書を受け入れるが、約5年後にはこの書庫も満杯になる見通しで、増床すれば費用がかかる。

 また、これまで取り組んできた児童文学研究は継続しないという。貴重な書籍は付録なども一体保存されるなど、特殊な保存法も取り入れられていたが、同館の遠藤純主任専門員(41)は「一般図書館でも、こうした管理が継続されるのか不安」と懸念する。

 さらに、これまでは研究機能のある専門書図書館として、文学者や出版社などから多くの寄贈を受けていたが、今後も児童書を継続収集できるかは分からないという。児童文学者の鳥越信氏は「研究機能がない図書館に移れば資料の価値が失われる」と主張。寄贈した書籍の返還を求め、大阪地裁に提訴している。

 こうした経緯もあり、アニメ映画監督の宮崎駿氏らからは、文学館の存続を求める要望書も提出されていた。

(2009年12月27日 06:42)
http://www.sankei-kansai.com/2009/12/27/20091227-018716.php

読売新聞「国際児童文学館27日閉館…「誇れる施設」惜しむ声」

 大阪府の財政難から橋下徹知事が来年3月末での廃止を決めた府立国際児童文学館吹田市)が、27日で府立中央図書館(東大阪市)への資料移転準備のため閉館し、25年の歴史に幕を下ろす。約71万点の書籍・資料を収蔵する同館の廃止には、文化人や住民らから「橋下知事の文化軽視だ」として反対運動もあった。府側は「移転で利便性は増す」とするが、利用者からは「なぜ廃止を急ぐのか」との声もなお少なくない。

 1階の閲覧室は26日も、絵本や紙芝居を子どもに読み聞かせる家族連れでにぎわった。家族で訪れた兵庫県加古川市の女性(38)は「素晴らしい施設。本当になくなってしまうんですか」と残念そうに話した。

 宮沢賢治の童話集「注文の多い料理店」の初版本や、長嶋茂雄さんが表紙の「週刊少年サンデー」の創刊号など貴重な収蔵品も多く、吹田市の主婦(66)も「全国に誇れる施設だったのに」と惜しんだ。

 解雇される運営財団の職員約10人の再就職先や廃止後の建物をどうするかなども決まっておらず、向川幹雄館長は今も、「性急に廃止する必要はない。橋下知事は方針を凍結するべきだ」と訴えている。

 同館は児童文学研究家の鳥越信さん(80)が寄贈した約12万点の資料を基に1984年設立。開館直後は年10万人以上いた利用者が、最近は5、6万人に減り、橋下知事は「運営努力が足りない」と2008年6月に廃止を決めた。鳥越さんらは寄贈資料の返還を求め、民事訴訟で争っている。


(2009年12月27日 読売新聞)
http://osaka.yomiuri.co.jp/mama/news/20091227kk02.htm

朝日新聞「大阪の児童文学館、25年の歴史に幕 橋下改革の一環」


 大阪府立国際児童文学館吹田市)が、府立中央図書館(東大阪市)への移転準備のため、27日に閉館した。橋下徹知事による改革の一環で廃止が決まり、多くの文化人や府民らが存続を求める運動を続けてきたが、25年の歴史に幕を閉じた。

 この日、最後となった恒例の絵本の読み聞かせに100人以上が訪れた。2人の娘を連れてほぼ毎週通った大阪府茨木市の主婦近藤志子(ゆきこ)さん(40)は「おかげで娘は自然と本好きになった。閉館はすごく残念」と惜しんだ。

 午後5時に閉館時間を迎えたが、長年のファンが職員らと記念撮影。向川(むこうがわ)幹雄館長があいさつし、「心ならずも閉館となり、誠に申し訳ない限り。いつかまた再生したい」と声を詰まらせた。

 同館は1984年、万博記念公園内にオープン。児童書、マンガなど約70万点を所蔵する全国有数の施設だったが、入館者が年約5万人に落ち込み、橋下知事が廃止を決めた。図書を寄贈した文学者らが反発し、寄贈本の返還を求めて訴訟を起こしている。

2009年12月27日22時56分
http://www.asahi.com/national/update/1227/OSK200912270074.html


 問題点が一番良くまとめられているのは産経だと思います。


1)資料移転後の建物・土地の利用方法がいまだに決められていないのに、なぜ性急に移転を進めるのか不明であるという点。

 施設は当初、撤去される予定だったが、約2億円の費用がかかることもあり、一時は府公文書館大阪市住吉区)を移転させる案も浮上。橋下知事は今月中旬、図書館で貸し出し実績の少ない本の収蔵場所にする独自案を表明したが、所管する府教委も「寝耳に水」の提案だったといい、まだ方向性は定まっていない。

 このまま行けば、利用法が決まらないまま、空家の建物のために、万博記念機構に年間2200万円の地代を払い続けることになりかねません。移転効果額の試算にその地代は入ってなかったはずです。
 この件については、下記の記事があります。

朝日新聞「どうする児童文学館 解体2億円、残すと年2200万円」

 28日に閉館する大阪府立国際児童文学館吹田市万博記念公園内)の建物の扱いに、府が苦慮している。利用しないのに建物を残せば、年間2200万円の土地使用料を払わなければならず、解体・撤去するには約2億円かかるからだ。今も閉館に反対する児童文学館側は、閉館後の対応を決めずにいる府の無計画ぶりを批判している。

 橋下徹知事は2008年、財政再建の一環で、運営に年間2億円を支出してきた児童文学館を09年度末で廃止し、所蔵資料を東大阪市にある府立中央図書館に移すと表明した。府は今年度の当初予算に移転関連費用は盛り込んだが、文学館退去後の建物の扱いは決めていなかった。

 文学館の建物は地上2階地下1階建てで、独立行政法人日本万国博覧会記念機構から借りている約3500平方メートルの敷地に立つ。延べ床面積は約3千平方メートル。約13億円をかけて1984年に完成し、耐震性などの問題はないという。

 府は昨年6月以降、吹田市や万博機構に建物の活用を打診したが断られ、庁内でも利用の手は挙がっていない。11月には、府公文書館大阪市住吉区)に移転を持ちかけたが、公文書館側は来秋以降に府の部局が移る予定の大阪ワールドトレードセンタービルディング(同市住之江区)への移転を希望した。

 建物を撤去しない場合は、万博機構に年間約2200万円の地代を払わねばならない。ただ、機構からは「建物を撤去し、土地を返して」と言われているという。

 橋下知事は「利用しないのに、使用料を払い続けるわけにはいかない」と話しており、新たな利用者が見つからない場合は2億円をかけて撤去せざるを得ない状況だ。

 だが、府の財政は厳しく、教育委員会の担当課は来年度当初予算案に撤去費を計上するかどうか決めかねている。府幹部は「撤去はもったいない。公文書館が移るよう知事が説得すると思う」と話している。

 一方、児童文学館の向川幹雄館長は「撤去費用がもったいないからと、他の施設を持ってくるのはおかしい」と指摘。「今からでも遅くないから、知事は文学館の廃止を考え直してほしい」と訴えている。(春日芳晃)

2009年12月14日5時45分
http://www.asahi.com/national/update/1213/OSK200912130013.html


【追記】このエントリをアップした後、下記の報道が今日出ていたことを知りました。

朝日新聞橋下知事、閉館の児童文学館を公文書書庫に転用方針」
 大阪府橋下徹知事は28日、大阪府立国際児童文学館吹田市万博記念公園内)の閉館後の建物の利用法について、府公文書館大阪市住吉区)の書庫とする方針を決めた。来年度予算案に年2200万円の土地使用料と公文書の移転費用を計上する。

 文学館は27日に閉館した。向川(むこうがわ)幹雄館長は府の結論について「書庫を万博公園に置いて大阪のためになるのか。もう一度議論して、文学館を残してほしい」と訴えている。

 公文書館は現在、府の公文書のうち歴史的、文化的な価値のある約14万点を保管し、閲覧できるようにしている。だが来館者は2008年度で1520人と低迷し、活性化策が課題になっている。

 文学館の建物は、利用せずに残せば年2200万円の土地使用料がかかり、解体・撤去すれば2億円かかるため、どのように使うかが焦点となっていた。公文書を移し、公文書館の土地と建物を来年度に売り出すことで、約3億円の売却益を見込んでいる。

http://www.asahi.com/kansai/entertainment/news/OSK200912290025.html

 よく分からないんですが、減ったとはいえ年間5万人入っていた施設をここまで強引に廃止しておいて、今頃、年間1520人しか入ってなかった施設がありますんで、そちらの資料を移して、土地は売却します、って、おかしくないですか?
 公文書館資料を府立中央に移して土地は売却、児童文学館は現地存続、の方が、はるかに合理的だったのでは?
【追記終わり】


2)研究機能が継続されないことによって、資料の特殊性に応じた保存法も維持されなくなる可能性がある点。

 また、これまで取り組んできた児童文学研究は継続しないという。貴重な書籍は付録なども一体保存されるなど、特殊な保存法も取り入れられていたが、同館の遠藤純主任専門員(41)は「一般図書館でも、こうした管理が継続されるのか不安」と懸念する。

 これは、ほんとにまずいのではないでしょうか。


3)同じく、研究機能が継続されないことによって、子供の読書支援活動も継続が困難になるとみられる点。これは毎日新聞の方に指摘があります。

児童文学の知識のある専門員は大半が解雇されるため、これまで実施してきたワークショップなどの企画の運営も困難になる。

 府議会での議論では、知事が何度も「研究は大学でやればいい」という趣旨の発言をしていましたが、児童文学館で行われている研究は、狭義の作家論や作品論だけでなく、歴史的に重要な児童雑誌の細目作りのような、図書館におけるレファレンスサービスにつながる基礎的な研究や、子供の読書支援活動の実態と方法論についての実践的な研究も、専門員によって重点的・継続的に行われてきたのであり、それらは府内全域の公立図書館の児童向けサービスへの貢献という館の活動に、直結するものでした。このことは、児童文学館の研究紀要のバックナンバーの目次を見れば分かります。

http://www.iiclo.or.jp/06_res-pub/04_journal/back.html

 この研究機能の継続という点において重要な、現在の専門員4名の今後については、8月の第19大阪府戦略本部会議で、3年程度の任期付きで1名、非常勤で1名を雇用、という案が出されていました。

http://www.pref.osaka.jp/kikaku/senryaku/2119giji.html
(「議題2 国際児童文学館」)

 11月の財団からの報告では、任期付き雇用の任期は3年と確定したようですが、何名が雇用されるのかは明記されていません。

http://www.iiclo.or.jp/hp/genjyo6.html

 上の財団からの報告には、「財団の事務所を府立中央図書館内に置き、これまで財団が独自で行ってきた事業をできるだけ継続、“子どもと本をつなぐ”活動を進めていきたい」ともありますが、これはあくまで財団の事業であり、府の事業ではありません。府自身がどのような方針・方法によって“子どもと本をつなぐ”活動を行うのかについては、なんら具体的なものは示されていません。
 戦略本部会議の議事録を見ていると、あたかも、府立中央図書館の市場化テストによって、司書の人員に余剰が生じ、府の職員である司書のクビは簡単に切れないので、児童文学館の業務を担当させる、だから児童文学館の財団職員である専門員を正規に雇用することはできない、というような論理で事が運んでいるように見えます。そして、この点についてだけは、知事の指摘の方が説得力があると言えるでしょう。

【知事】
・専門員について常勤と非常勤の1名ずつ計2名というのは明確にして欲しい。今の中央図書館の司書が公務員身分であることは理解するが、現在、市場化テストで司書業務の検討が進んでいる中、人員削減が可能となったその枠をそのまま児童文学館の業務引継ぎに対応するというのはどうか。児童文学館の業務を引き継ぐのであるから、その業務は財団の司書にやってもらうのが筋ではないか。

【教育長】
・そもそも児童文学館を中央図書館に移転して、そこで運営していくというのが基本的な考え方である。児童文学館を管理する財団については自主運営の方向で整理していく。そこの人件費を府の補助金で補填してきているので、その分は整理をしたい。

【知事】
市場化テストで中央図書館の司書が多いということになれば、それを踏まえて、まず図書館の人員をあるべき姿に縮小する、余剰人員が解雇になるのかどうかといったテクニカルな話は別にして、児童文学館から引き継ぐ業務のために図書館の司書4名が担当するということだが、優先順位としては、財団で今まで雇用されていた司書の方にお願いするのでは。中央図書館の司書を守っているような気がする。

【総務部】
市場化テストの話が入ってきたので多少ややこしいかもしれないが、本来は児童文学館を中央図書館に持ってきて一体管理しようというのが今回の移転案の趣旨。中央図書館の司書がこの業務に従事するというのが一体化の趣旨である。

【知事】
・司書という身分では、児童文学館の司書も中央図書館の司書も同じなので、4名の司書が必要というならば、財団で雇われている児童文学館の司書を中央図書館で雇用するのが筋なのではないか。一方で、中央図書館の業務として人員が余剰になったのなら、一旦そこで整理してけじめをつけるべきではないか。余剰であったところ、たまたま児童文学館の業務が来たから雇用が守られるというのはおかしいのではないか。

【綛山副知事】
・そうではなく、中央図書館と一体運営することによって、単独で児童文学館を運営するよりも1億7800万円の府費をかけるよりも効率的に回り、かつ65万人に本を提供できる。基本的には、中央図書館に持ってくることによって、新たな要員はいらず、中央図書館の中で吸収するというのがスタート。別途、中央図書館では、別の要因の市場化テストが入ってきて、何人減らすかわからないが、それはそれで、市場化テストの見返りで減らすのは減らすと考える。後は、中央図書館に持ってきた後、どういう形の要員構成にするのか。司書11人の内訳は、常勤3人(うち期限付き2人)、非常勤8人(いずれも常勤換算)。身分や雇用形態に応じてどういう形で充当していくべきなのか。非常勤の方、期限付きの方に残っていただいて、常勤の中央図書館の司書にやめていただくということではないと思う。身分関係や基本的考え方に基づいて、要員を整理してもらうことになる。

【知事】
・もともと、中央図書館の業務内で吸収できるという話は、中央図書館が適正な人員で回っている中で、国際児童文学館の図書が来ても、中央図書館の中でまわしてもらうということではないか。
・しかし、今の中央図書館業務の中で人員が過剰だという話になるなら、それと児童文学館の移転の話をリンクさせるのはおかしい。

 引用部分最後の知事の発言を見ると、「中央図書館の業務内で吸収できるという話は、中央図書館が適正な人員で回っている中で、国際児童文学館の図書が来ても、中央図書館の中でまわしてもらう」というような、よく分からない論理で(だって中央図書館の現状の業務が現状の人員で「適正」に回っている、すなわち、「余剰」な人員など一人もいないのなら、そこに「国際児童文学館の図書が来ても、中央図書館の中でまわしてもらう」などということがなぜ可能なのか分かりません)、当時の教育長は知事を説得し、知事も説得されてしまっていたことがうかがえるわけですが、中央図書館の「余剰」人員は切れないから財団の専門員を切るのは、「機能」の維持という観点からおかしいというのは、知事の言う通りです。
 しかし、実際には、この知事の意見は通らず、財団専門員の雇用は任期付きのみ、かつ、1名ないし2名限りになってしまったということです。


4)こうした児童文学館ならではの研究機能の放棄によって、資料の継続的な収集に不可欠の、日本書籍出版協会(書協)加入各社からの、年間約2000万円相当の寄贈が受けられなくなると見られる点。

 さらに、これまでは研究機能のある専門書図書館として、文学者や出版社などから多くの寄贈を受けていたが、今後も児童書を継続収集できるかは分からないという。

 書協は、館の存続問題が明らかになった2008年3月末の時点で、理事長名義で知事あてに下記の要望書を提出しています。

http://www.iiclo.or.jp/hp/youbousyo/syokyo.pdf

 この点は、3月の府議会で廃止が決議された時のエントリでも指摘しましたが、いまだに「今後も児童書を継続収集できるかは分からない」と報じられる現状では、やはり、今の移転案の形では、資料の継続的な寄贈は望みがたいということだと思われます。


 ここで、改めて、廃止が議決された際の付帯決議を確認しておきます。

 大阪府立国際児童文学館の中央図書館への移転については、知事及び執行機関は、今定例会で行われた議論を厳粛に受け止め、次の諸点について格段の努力をすべきである。
一 国際児童文学館設立時の趣旨に沿い、引き続き資料を収集・保存・活用すること。
一 これまで国際児童文学館において培われてきた「子どもの読書支援センター」並びに「児童文化の総合資料センター」としての機能を引継ぐこと。
一 中央図書館において引き継がれた機能が、府民・利用者に明確に分かるよう区分した対応に努めること。

大阪府議会ホームページ、会議録検索
http://www.pref.osaka.jp/gikai/discuss/framebase_osk_etu.html
平成21年2月定例会教育文化常任委員会-03月23日−04号、p.162

 上の各報道に指摘された問題点に照らせば、この三項目の付帯決議の内、最初の二つは、決議が行われた際の当ブログでのエントリでも指摘したとおり、実行される見通しは極めて薄いことが明らかになってきていると思います。
 橋下知事は、当時の教育長だった綛山副知事は、そして、9月議会で存続の請願を全会一致で採択しながら、わずか半年もしないうちに、府側に押し切られる形で、一転して廃止案賛成に回った自民・公明の各会派は、このことをどう認識しているのでしょうか。


 「いえいえ、『格段の努力』はいたしましたが、出版社各社様のご理解が得られず、残念ながら、『国際児童文学館設立時の趣旨に沿い、引き続き資料を収集』することはできませんでした」といった答弁で許されていってしまうのであれば、この付帯決議は、初めから府側に逃げ口上を用意したものだったというほかないでしょう。


 「財団の専門職員4名のうち、1〜2名だけは、3年の任期付きで雇用するので、『これまで国際児童文学館において培われてきた「子どもの読書支援センター」並びに「児童文化の総合資料センター」としての機能を引継ぐこと』は十分可能なはずですし、特にそれ以外の具体的な根拠もありませんが、戦略本部会議で申し述べました通り、『国際グリム賞とニッサン童話と絵本のグランプリについては、民間などと一体となって取り組んでいるものであり継続させたい』です」で通ると、府側は思っているのでしょうか。


 改めて、大阪府は、後世に恥ずべき拙速な決断をしたと思わずにはいられないわけですが、一方で、僕としては、「のりみ通信」さんの次の記述に、切実な反省をしなければならないと思っています。

結局のところ議会制民主主義のもとでは、8万5千人の府民が廃止に反対したって870万人の無関心な府民に負ける。いくら頑張っても惜しんでも、どうすることもできない。知的アーカイブが公共で支えられていることの意味や価値は、分からない人には何を言っても無駄でどんなに言葉を尽くしても理解してもらえない。

「好き」の反対は「嫌い」ではなく「無関心」です。
国際児童文学館の廃止をとめることができなかった最大の理由は、結局のところ大多数の府民の関心の低さにあります。


 のりみ通信さんに対する批判としてではなく、わがこととして、自戒の念を込めて言います。
 「好き」の反対は「嫌い」ではなく「無関心」。まさにそうです。そしてこれを、大阪府民に対する批判に直結させてはならない(もちろんのりみ通信さんもそんなことは言っていないと思います。が、読む方がそういう流れで読んでしまう可能性は十分あるでしょう)。
 本当に「何を言っても無駄でどんなに言葉を尽くしても理解してもらえない」のかどうか、去年の3月以来の存続運動において、「無関心」を「関心」に変える上で、何が足りなかったのか、きちんと検証する必要があると思います。
 あるいは、もし、「無関心」を「関心」に変えるという点では、ごく限られた期間でできることは全てやったと言えるなら、ワッハ上方が一転して存続になったように、府民の「無関心」はそのままでも、府知事を動かしてしまえる方法はなかったのか、についても、検証する必要があると思います。
 この点においても、府議会の全会派に積極的にロビー活動を展開したと思われる「育てる会」の運動は、基本的に正しかったと思います。しかし、何かが足りなかった。ブログ上でちょこちょこ言いたいことを言ってるだけの人間が外野から偉そうに言える立場ではありませんが、今後、全国各地の文学館、美術館、博物館、図書館で、同じことが起こらないようにするためにも、その検証は必要だと思います。
 そして何より、その、今後、全国各地の文学館、美術館、博物館、図書館で、同じことが起こらないようにするためにも、という点では、「廃止」が持ち上がる前に、普段から、どのような「関心」の喚起の活動をしておくべきなのか、を、これは児童文学館の存続運動にかかわった人だけでなく、全国各地の、「ここだけはつぶしてほしくない」と思っている施設について、それぞれの現場の人々が知恵を集めていく必要があると思います。
 もちろん、下記の「Literary Museum Studies」さんのさまざまな報告からうかがえるように、実際に、そういう試みはすでに、あちこちで、同時多発的に、地道に始まっているのだと思います。

http://d.hatena.ne.jp/literarymuseum/

 僕としても、マンガ展、マンガミュージアム、マンガ関連資料のアーカイブ、等々の現場に近い者の立場から、その試みに関わり続けていきたいと思います。
 また、組織や活動の規模を縮小せざるを得ないと見られる過酷な状況の中、継続を表明されている財団の活動には、今後もできる限りの協力をしていきたいと思います。

 
 以上、結局力になれなかった者の、一応の総括として、年末に、今の思いを、記して置く次第です。
 児童文学館は、博士課程の院生になって以来、研究者としての自分の最大の拠り所でした。毎年、合計10日から20日くらいずつ、通いました。それが、10年近く続きました。ものすごくたくさんの資料、そして研究者のみなさんとの出会いがありました。
 大阪府立国際児童文学館、および財団法人大阪国際児童文学館に、あらためてお礼を言いたいと思います。
 ありがとうございました。