宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

行こう!北九州市漫画ミュージアム!!

【最初の企画展最終日の日付で載せています(9月14日記)】


 大変遅ればせながら、北九州市漫画ミュージアムのご紹介をしたいと思います。公式ウェブサイトはこちらですね。どんどん更新されてますよ。


http://www.ktqmm.jp/


 私はオープンの2日後、8月5日に行ってきました。基本コンセプト検討委員会以来、ずっとお手伝いさせてもらってきたので、ほんとはオープンの日にご招待いただいていたんですが、中京大学での集中講義の日程が先に決まっていて、いたしかたなく。
 前夜に北九州入りして、朝イチで行きました。入口は当然混雑してるので、事務方さんに「センセイ、こっちですこっちです」みたいな感じでつるっと出口側から入り事務室に入り、という流れだったので(笑)、なんというかこう、入口の前でちょっとタメがあって、「おおお、ついに・・・」とか思いながら中に入って思わず涙、みたいな感慨も特になく(笑)。知った顔が大半の事務室で、いやーお疲れ様でしたー、みたいなカジュアル感で入らせてもらったのでした。ま、一日いる間に、ちゃんとじわじわじわじわ感慨はあったんですけど。


 西日本新聞のコラムでは書かせてもらったんですが、私、このミュージアムの開館にあたって、「研究アドバイザー」というお役に選任していただきまして、市長名での選任書(辞令みたいなものですね)を、館長の田中時彦さんから交付していただきました。
 オープン準備の時期には、常設展の展示解説の監修(というほどでもなくて、校閲くらいの感じなんですが)をさせてもらったりしてたんですが、ミュージアムの運営全般について、専門的な研究者としての立場から、いろいろ助言をさせてもらうというお役目で、年に数回実際ミュージアムにうかがって、現状を教えてもらって意見を言わせてもらったり、新たな展示の解説文をチェックしたり(こういうのはメールでも出来ますので)、という形になると思います。
 基本コンセプト検討委員会が終わった後も、学芸員さんの選考とか、設計業者のプロポーザルの選考とか、展示プランについてのヒアリングとか、その都度個別に、いろいろな仕事を依頼してもらっていて、オープン後も関わり続けられるとうれしいなと思っていましたから、できる限りのお手伝いをこれからもしていきたいと思います。


 と、案の定、前置きだけですでに長くなり始めてますが、もう開館から1カ月以上たって、各種メディアで大方紹介されてもいるので、ここからは写真の多めでなるべくさくさく紹介していきたいと思います。
 なお、館内は、特に許可されている場所を除いて、原則撮影不可ですが、今回は取材許可を得て撮影したものを載せています。


 まずJR小倉駅の改札を出て北口のペデストリアンデッキに出ますと、こちらの二人が目に入ります。



 前夜に行った時は普通に二人の間におじさんが座ってワンカップ酒を飲んでて笑いました。 
 で、もうちょっと進むとこちらのハーロックの立像が。




 なかなか造形のレベルが高いです。
 で、ビル全体がミニ秋葉原状態の「あるあるCity」が見えます。ここの5階と6階に漫画ミュージアムが入っているわけです。



 すたすた歩けば改札出てから5分もかかりません。
 で、6階のエントランスがこちら。




 受付にはメーテルさんたちがいます。開館当初は4人ぐらい常にいたようですが(笑)、多分それは減ると思います。



 北九州ゆかりの作家さんたちの作品がずらっと並びます。



 エントランスの正面では畑中純さんの追悼展示が行われています。



 このミュージアムのために作られたハーロック。これは精度高いです。記念撮影可。



 こちらは松本零士先生がお持ちだったメーテル。常設展の最初は松本零士コーナーになります。



 オリジナルの松本先生メッセージ映像なども充実しています。


 そして常設展の二番目のコーナーは「漫画の七不思議」。漫画の作られ方や表現の仕組みなどを解説します。



 漫画家の仕事場、として関谷ひさしさんの仕事机・仕事道具が展示されています。



 表現の仕組みの解説は、この展示のために構成されたもので、作例が全て北九州ゆかりの作家さんの作品になっていて豪華です。
 ツイッターやブログなどを見ていると、このコーナーが退屈っていうご意見もたまに見かけますが、ここは、学校などの団体さんの見学も想定しています。平日のお客さんとしてそうした団体さんは結構大きいので。
 で、表現の仕組みって、夏目房之介さんの仕事が知的なエンタテインメントとして成立することを考えてもらえばいいんですが、興味ある人には面白いんですよ。ただ読むだけだとアレな場合でも、学芸員さんの口頭での解説付きで見てもらえれば、こういうコーナーはちゃんと面白いはずなんです。
 僕としては、やっぱり、税金使って作られてる公立のミュージアムである以上、みんなが知ってる漫画の楽しみを、そのまま提供するだけでなく、みんなが知ってる漫画を今まで以上に深く楽しんでもらえるような新たな漫画の見方、新たな漫画体験を提供するという、広い意味での教育性は意識しないといけないと思います。知る、とか、分かる、とか、見えるようになる、って楽しいんです。
 こうしたコーナーは京都国際マンガミュージアムにもあって、それも踏まえてさらに洗練されてるはずですが、たしかにまだ改善の余地はあると思います。北九州市漫画ミュージアムは常設展もほんとに常設で固定してしまうのではなく、ちゃんと動いていく、育っていく、変化していく、ということを当初からうたっていますので、こうしたコーナーの意義自体は否定せず、プレゼンテーションの仕方は、みなさんのご意見も踏まえてある程度の時期を経たら更新されて行くと思います。



 北九州ゆかりの作家さんと地域性と関わらせてお見せするコーナーには、キネクトというインタラクティブな仕掛けがあって、スクリーンをタッチパネル的に操作して、ゆかりの作家さんについて知ったり、ゆかりの作家さんのキャラクターのポーズをまねて採点、順位を出したりできるようになっています。これ楽しいです。いずれはポージングした写真をプリントアウトしてお持ち帰りいただけるようになるかもとのことです。



 この辺が常設展の中の「連載展示」。数カ月単位で連載っぽく内容が更新されて行きます。



 廊下の壁の棚を使って、漫画史上の重要な作品を年表的に並べた「漫画タイムトンネル」。ここの棚の本も読めます。
 この廊下を抜けると市民のみなさんにも使ってもらえるギャラリースペースがあり、そこを過ぎると、蔵書約5万冊の閲覧ゾーンが広がります。



 空間的には常設展ゾーンと閲覧ゾーンの間にエスカレーターがあって、そこが吹き抜けになってるので、外光がある程度入ります。これを活かして明るくて開放感のある閲覧ゾーンになっています。



 こういうふうですね。




 カウンターには「漫画ソムリエ」さんがいて、こういう漫画探してるんですけど…っていう問い合わせに答えてくれます。少なくとも答えてくれようと努力してくれます。漫画はとにかく膨大なので、見つからないときもあると思いますが。
 5万冊のうち約半数は、開館前に市民のみなさんに寄贈を募った結果集まったもの。これに補充をして、一般的な漫画喫茶にはないような古典や名作、海外の作品、評論・研究書などをしっかりそろえています。
 「今」の売れ筋だけじゃないので、親子で、あるいはおじいちゃんおばあちゃんとお孫さんで来ていただいても大丈夫な品ぞろえになっているはずです。



 閲覧ゾーンには、本が並んでるだけではなくて、ソムリエからのおすすめや案内を書きこんだり、利用者のみなさん自身におすすめを書いてもらったポップを貼ってもらったりできるボードがたくさんあります。
 こういうところで、スタッフと利用者、さらには利用者同士のコミュニケーションができていくといいなと思っています。





 閲覧ゾーンにいるスタッフは一応みんなソムリエって位置づけなんですが、司書資格を持った、このミュージアムの司書さんも複数おられます。で、司書さんたちは、特定のテーマを立てて、いくつかの作品を並べて、こんな漫画が好きならこの漫画も読んでみたら、という出会いの演出を工夫してくれています。これももうすでに新しいテーマでの陳列に更新されてるみたいです。



 このソファーがですね、ほんとに気持ちいいんですよ。僕もまだ北九大にいたら、しょっちゅうここでごろごろしてるんじゃないかと(笑)。


 これで6階のフロアは一応ご紹介したことになるんですが、多くの方が実は5階にも企画展ゾーンがあることにお気付き出ない模様。今は「夢と冒険の漫画ワールド−松本零士関谷ひさしと北九州の漫画家たち」をやっております。





 テーマごとに章分けし、原画と作品掲載誌の組み合わせで見せていくオーソドックスな展示なんですが、そもそも「5階もある」ことが6階では分かりにくいということがあり、多くの来館者のみなさんが5階には下りないままになっているようです。もったいない。実にもったいない。


 この展示について強くお訴えしたいのは、副題には松本・関谷両氏の名前しか入ってませんが、実はほとんど同じ比重で「北九州の漫画家たち」のみなさんの作品も紹介されているということ!
 少女漫画家のみなさんについては年明けに企画展があるので、今回は少年・青年漫画家中心になっていて、畑中純さん、北条司さん、わたせせいぞうさん、井上正治さん、せきやてつじさんといった方々の作品がふんだんに紹介されています。


 





 写真は載せられませんが、どの作家さんの原画も、数も多いし、また、実にいい場面のページが出てるんですよね。驚きました。ちょっとしたギャラリーなら、北条司展、せきやてつじ展としてやれるレベルの原画が、作家のみなさんのご厚意で並んでます。もちろん松本零士先生の原画も、関谷ひさしさんの原画も、力のあるものがたくさん並んでます。
 今はもう会期後半になったので、展示替えされたようですが、おそらく同レベルの質量がそろっていると思います。ファンのみなさんはぜひぜひ。
 

 「5階もある」ことは、次の企画展の「ルパン三世展」で結構認知されるんじゃないかと期待しますが、今の企画展がこのままがらーんとした感じで終わって行くのはさみし過ぎるので、ぜひみなさん5階にも行って下さい!


 というわけで結局いつものように紹介し過ぎな感じの紹介になってしまいましたが、実は全然紹介し過ぎじゃないです。行ってもらえればもっと楽しいです。


 まだ始まったばかりの漫画ミュージアム。これからもどんどん成長して行けるよう、現場のみなさんは奮闘中です。ご期待下さい。ご意見を下さい。力をお貸しください。


 最後に今までプレイベントを企画段階から手伝い、4冊の『Comi9!(こみきゅー)』を発行してきた北九州漫画ミュージアムプロジェクト(k.m.p.)の現メンバーのみなさんとの記念写真を。



 以前お知らせしたとおり、k.m.p.はこれをもって解散しますが、今後はミュージアム自体の方でこうした市民・学生ボランティアのみなさんの力を活かしていく形を模索していくと思います。こちらにも注目していただきたいと思います。ちなみに『Comi9!』最後の4号は、エントランス付近のチラシスタンドにまだ置いてあるのではないかと思います。


 最後に開館1か月後に出た新聞記事を。こういうフォロー記事が出るのはありがたいですね。

北九州市漫画ミュージアム:オープン1カ月 「順調」と手応え 年齢層幅広く/閲覧ゾーン人気 /福岡

毎日新聞 2012年09月06日 地方版


 北九州市小倉北区のJR小倉駅新幹線口に整備した「市漫画ミュージアム」は、8月3日の開館から1カ月がたった。学校の夏休みと重なった9月2日まで1カ月間の入館者は1万5912人を数え、年間10万人を目標に掲げる同館は「順調な滑り出し」と手応えを感じている。【内田久光】


 同館は、名誉館長の松本零士さんをはじめ、わたせせいぞうさんや北条司さんら多くの漫画家を輩出した北九州市の漫画文化の発信拠点。サブカルチャー商業ビル「あるあるCity(シティ)」5、6階に、松本さんら市ゆかりの漫画家を紹介する展示コーナーや、国内最大級の約5万冊の漫画閲覧ゾーンなどがある。


 同館によると1カ月間の入館者数は、平日が1日300〜400人、休日が同600〜700人ほどで推移。最も多かったのはお盆の8月14日の1084人だった。同館は「夏休み期間だったので、家族連れや孫を連れたお年寄りの姿が多かったが、若者グループや年配の夫婦など幅広い年齢層に来てもらっている」と話す。



http://mainichi.jp/area/fukuoka/news/20120906ddlk40040367000c.html


 入居している「あるあるCity」はマニアックなお店がたくさんでカオスな感じで、それはそれで楽しいし、ビルのコンセプトとしては個性が明確でいいと思うんですが、漫画ミュージアムは、漫画はとにかく間口が広いもので、市民のみなさん誰しも楽しんでもらえるものだっていうことを伝えたいっていうコンセプトがあったので、たくさんの方に来ていただいているだけでなく「夏休み期間だったので、家族連れや孫を連れたお年寄りの姿が多かったが、若者グループや年配の夫婦など幅広い年齢層に来てもらっている」っていうのはうれしいですね。


 いやー、それにしても、感慨深いです。西日本新聞のコラム「マンガは生きている」でも書きましたが、当初入居予定だったショッピングモールの増床計画が無期延期になって、一時は、いつ開館できるのかも分からなくなりかけてたことを思うと、こうしてまたとない好立地でオープンできたのは、本当に幸いだったと思います。
 自分としても、大きな公共の施設の企画の立ち上げからオープンに至るまでのプロセスに継続的に深く関われたことは、ものすごく勉強になりました。本当にありがたい経験でした。
 今までの経緯にご興味のある方は、このエントリのタイトルのとこにある「北九州市漫画ミュージアム(仮称)関連」ってタブをクリックしていただければ、このタブがついているエントリがずらっと出ますので、さかのぼっていただくと、数年にわたる経緯を、僕が関わっている限りでですが、ご覧いただけます。


 ともあれ、当事者の感慨がどうであれ、準備の過程がどう大変であれ、施設の成否は、来館者・利用者のみなさんが、この施設の中で様々な経験をされて行くことの積み重ねで決まっていくものです。どうか少しでも多くのみなさんに、この北九州市漫画ミュージアムという場の、いろんな顔、いろんな楽しみを、一緒に作り、育てていっていただければと思います。
 まずは、一度足を運んでいただき、そして次はたっためっちゃお得な年間パスポートを買っていただければ、と思います。よろしくお願いします!


【追記】
 北九州市漫画ミュージアム専門研究員の表智之さん、京都国際漫画ミュージアム吉村和真さん、そして明治大学 米沢嘉博記念図書館森川嘉一郎さんが、内記稔夫さんと現代マンガ図書館、そしてそれぞれのミュージアムアーカイブについて語るシンポジウムが、明治大学で10月14日に行われます。

タイトル:米沢嘉博記念図書館 開館3周年記念イベント「現代マンガ図書館から受け継がれたもの」

講師:吉村和真京都精華大学教授)、森川嘉一郎明治大学准教授)、表智之北九州市漫画ミュージアム専門研究員)

日時:2012年10月14日(日)/16時〜18時

場所:明治大学リバティタワー7階1073教室

料金:無料

http://d.hatena.ne.jp/yonezawa_lib/20121014#1347018079


 漫画とミュージアムアーカイブのことについてご興味のある方は、ぜひお越しを。