宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

「石子順造的世界」展、行ってきましたー


 明日で会期終了、何とか滑り込みました。
 石子順造がどんな人かは、下の美術館ホームページをご覧ください。日本でマンガの研究をする上では、避けて通れない仕事をした人です。


http://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/ishiko/index.html


 僕も大学院生のころ、熱心に読みました。石子の書くものは、晦渋とか難解とか言われることも多い文体ですが、文法的には誤っていないし、実はちゃんと独特のリズムがある文章なので、僕は結構病み付きになってた時期があります。


 近年、美術評論の分野でも再評価が進んできていて、その流れの上で実現した展覧会のようです。
 「美術発・マンガ経由・キッチュ行き」の副題通り、その順で三つの大きな展示コーナーで構成されていて、たいへん明解に、石子順造の目を通して見た世界、石子順造がその活動を通じて我々に見せようとしていた世界が、提示されていました。



 府中駅にあった広告。これはキッチュ押しですね。
 昼前に着いて、ゼミ生男子1名と、石子順造的気分を盛り上げるために、駅前の飲み屋やラーメン屋の集まる路地をぶらぶらしていたら、見つけました。



 全16種類のチャーハン。これは入らねばなりますまい。
 確かに16種類のチャーハンから、月見肉かけチャーハンを注文。



 この見た目は予想してませんでした。シンプルな卵チャーハンの上に、炒めた肉の入った餡をかけ、真ん中に生卵。
 うん、うまい。いいぞいいぞ。値段もスープ付いて750円とリーズナブル。そうそう俺はこういう昼飯を石子順造展を見る前に食いたかったんだよ。



 ゼミ生女子と合流してバスで美術館に着きますと、今回の展示の目玉、つげ義春の「ねじ式」の冒頭の1ページを使った看板。引き伸ばし過ぎで画像のドットが見えてたのは、意図的だったのでしょうか。


 美術のコーナーは、石子が同伴者的に評価していた作家たちの作品を、特に石子が企画した展覧会「トリックス&ビジョン」展の再現を中心に展示していました。中村宏は今風だなあと思ったり、赤瀬川原平の偽千円札の本物(笑)を初めて見たり。
 マンガのコーナーは、一つの展示室を「ねじ式」の全ページの原画のためだけに使う思い切った構成。でもこれ、正解だと思いました。
 その手前の展示室では石子が取り上げていたマンガ家たちの作品の単行本を天井からワイヤーで吊るして、その場で立ち読みできるという、これもなかなか思い切った展示手法。たくさんの人がぶら下がったマンガを読んでる光景はなかなかおもしろかったです。
 キッチュのコーナーは大衆・民衆の無名的・匿名的な表現の数々ということで、写真撮影可。
 百聞は一見に如かず、石子がどんなものを「キッチュ」という西洋ではネガティブにしか使われない言葉にポジティブな意味をも込めて捉えようとしていたのかを見ていただければ。












 銭湯の壁画は石子がこだわったものの一つですが、これは最近のもので、はっきり署名があります(名字だけですが)。
 でも、その名前は展示キャプションには記されず、こうして撮影も可。ぶら下げてるマンガはダメなのに。なぜこういう区別が生じるのか、それこそが、石子が問おうとしていたことの一つでした。







 いやー、さっぱりしました。
 一つ付け加えておくと、石子順造自身の人となりについては、テーブルケースに彼の写真アルバムや原稿をざっくり並べてあるだけでした。僕にはそこが小気味よかったです。
 世間的な知名度の高い人ではないので、その辺丁寧に紹介したくなるところですが、あえてその辺は軽く触れるにとどめて、まさに石子順造が見せようとしていた世界を見せることに重点を置いているわけですから。


 ということで、この展示の図録は、一般書籍として流通しています。解説なども大変充実したものなので、展示を見に行けなかった人は必携かと。


石子順造的世界 美術発・マンガ経由・キッチュ行

石子順造的世界 美術発・マンガ経由・キッチュ行


 この展覧会に合わせて、石子の評論集も出ています。



 というわけで、見ごたえたっぷり、展示の工夫も面白く、学芸員さんの執念を感じさせる非常によい展覧会でした。