昨日は漫画史研究会10周年記念パーティ
でした。
いやー、10年かあ。正確には10年と約半年だけど。
楽しかったです。パーティ。僕は立食パーティが苦手で、食べ物にはうまくありつけられないし、人から人へうまく渡り歩けないし、てことになるんですが、昨日は、それでも楽しかったですねー。
あんまり楽しかったらしく、会場に、せっかくもらった記念品のノートと研究会の活動記録のプリントを忘れてくるという、忘れ物や落し物をめったにしない人間としては考えられないことをしてしまいました・・・。
今朝気付いてお店に問い合わせたんですが、どうも、ないらしいです。活動記録はあとでファイルのコピーをもらえばいいとして、ノートは・・・、出てくるといいなあ。ほんと、申し訳ないです。
てことで、とりあえず手元に活動記録がないんで、うろ覚えの記憶でちょっと書いときます。
もともとは、僕が1996年に東大の大学院に拾ってもらったころ、川崎市市民ミュージアムをお訪ねして、当時、漫画部門の学芸員で、今は東京工芸大学のマンガ学科の先生をされている細萱敦さんと、若手の研究者で定期的に集まれる場があるといいですね、なんて話をしたのがきっかけで始まったのでした。最初のセッティングは細萱さんがやってくださったんだと思います。川崎からは、細萱さん、それから同じく漫画部門の仕事を嘱託で(だと思います)されていた秋田孝宏さんやヤマダトモコさんが来ていて、僕は筑波時代からの付き合いの糸山敏和さんと姜竣さんを誘って行ったと思います。
場所はなぜか早稲田の演劇博物館で、以後、しばらくの間、会のためにオフィスの一角を貸してくださることになる経葉社のOさんや、マンガ関連資料の探索においてこの人の右に出る人はないMさんにも、この1回目の集まりでお会いしました。この最初の会合から、10年間、ずっと基本的に月1回のペースで集まりが開かれているわけです。
会場は、(主に)経葉社→(主に)僕の住んでた三鷹・武蔵野の公民館か、秋田さんの住んでる北区の公民館→(主に)北区の公民館か現代マンガ図書館の近くの公民館(?)か、みたいな感じで、2〜3年周期で主な会場も変わってきてます。タモリ倶楽部ふうに「毎度おなじみ流浪の研究会、漫画史研究会です」と言いながらその日の会を始めてた時もあったくらいです。
「漫画史研究会」という名称は、何回目かの時点で、僕がこういうことにしませんかと提案して、特に異論がなかったのでそうなった、という感じで決まったと思います。
別に昔のマンガを研究しましょうということではなく、現在のマンガのことを考えるにも、どっかで「史」のことを意識できているような視野を持ちたいな、ということでした。
「漫画」と漢字にしたのは、大して深い意味はありませんでした。僕が筑波大学の修士課程にいたときに、関一敏先生と糸山敏和さんと3人でやっていた小さな研究会が「マンガ史研究会」で、『マンガ史研究』という研究誌を94年と95年に1冊ずつ、計2号出していて、2号目が出たときすでに僕は筑波を出て東京で大学院浪人中だったので、そのあたりで研究会としては立ち消えになったんですが、一応研究誌を出して国会図書館や現代マンガ図書館にも寄贈していたので、これとは全く別に新たに立ち上げた会であるということをはっきりさせるために「マンガ」じゃなくて「漫画」にしたのでした。
とはいえ、夏目房之介さんほか、多くの方が「マンガ史研究会」とブログなどで書かれていても、誰もそれを本気でとがめたりしないテキトーさがこの研究会の持ち味だったりもするわけです。
そう、この研究会が10年も続き、よくまあこれだけ、と思うくらい多彩な参加者を得てきているのは、この、(少なくとも僕にとっては)いい意味で「適当」なとこが大きいと思います。僕はよく、ゆるいけど、ぬるくない、ってことだよな、と思ってるんですが、これはゆるいとぬるいのニュアンスをどうとるか次第で、別に、ぬるいけど、ゆるくない、でもいいんだと思います。
漫画史研究会には、名簿がありません。会費もありません。毎回の会場費は二次会の飲み会の参加費に含みこんでしまってます。規則もありません。みんなが負うべき義務ってなものも、ほとんどありません。要するに、漫画史研究会ってちゃんとした「団体」とか「組織」じゃないんですよ。これは僕が勝手にそう理解しているんですが、漫画史研究会というのは、あくまで毎月開かれている、その「会」に過ぎない。
その都度その都度の会の「参加者」はいても、「会員」はいない。会場を押さえたり、次回の予定の連絡をしたりする「世話人」はいても、「代表」や「リーダー」や「責任者」はいない。誰も、会や他の参加者に対して義務を負わない。ただただ自分の権利において、出たいとき・出られるときに、出てくる、だけ。だから、「メンバー」だの「入会」だのいう概念はこの研究会にはそもそも当てはまらない、と僕は思ってます。でも、思ってない人もいたりする辺りが、むしろこの研究会のゆるさをよく表しているわけです。
そんなふうですから、遅刻とか早退とかは誰も気にしてない。いつも大体3時間以上やってるわけですが、異様に充実した発表が複数あるときもあれば、誰も発表する人がいなくてみんなで延々と雑談してるだけのときもある。午後1時から、って言っても1時からちょっとずつ人が集まってきて雑談してる状態があって、始まるのは2時から、みたいなやり方が普通だし、休憩明けにその日の参加者全員の「自己紹介」という名の近況報告が1時間近く続いちゃって質疑応答の時間がちゃんと取れなくなることも珍しくないけど、ま、面白いからいいか、二次会もあるし、みたいな。
会に来ている人が連れてきた人は、誰も拒まないから、大学院生だろうと学部生だろうと、在野の評論家だろうと、出版社の編集者だろうと、専門はアニメ研究だろうと、何やってんのかわかんないプー太郎だろうと、とにかくマンガが好きでマンガについて考えたりしゃべったりするのが好きな人なら、みんな分け隔てなく参加できる。結果的に、たまーにイタい人が入ってきてしまう可能性を排除できないんですけど。
で、その代わり、たまたま会に来てる人に誘ってもらえない限り、どんな偉い人も参加できない。その意味では、入会申し込みをして年会費を払って会則に従えば誰でも入れる日本マンガ学会より、はるかに閉鎖的だとも言える。最近来ないねって人に気を遣ってわざわざ声をかけることもない。紹介されて来る者拒まず、去る者追わず、半ば開放的、半ば閉鎖的、です。
会が始まって何年目かの時点で、メーリングリストを秋田さんが作ってくれて、毎月の会の簡単なまとめと次回の連絡などを秋田さんがしてくれているほか、参加者が情報を流したり、みんなからのお知恵拝借に使ったり、思いがけず充実した議論が展開したりすることもあります。でも、数年前から主な常連参加者の多くがブログかミクシィをやるようになってしまったので、メーリングリストはほんとに会合の連絡とマンガ関連のイベントのお知らせがたまに流れる程度になってしまいましたね。でも、それはそれ、なんですよ。わざわざ盛り上げようとする人もいない。
メーリングリストには、作ったとき以降に会に参加した人が、ほとんどみんな入っているので、全部でたしか200名を超える参加者があるわけですが、研究会には1回来ただけ、とか、海外に住んでるので研究会には来たことないけど、誰かの紹介で、みたいな人もメーリングリストにはいる一方、研究会には来る・来てたけどメーリングリストには入ってないって人もいますから、これが研究会の「名簿」なのかというと、これも微妙に違うわけです。
こんなやり方でやってる会なので、「常連」参加者も、実は結構入れ代わりがあります。3年目くらいから来始めて、5年目くらいから顔出さなくなった人、とか結構います。そうなる事情もいろいろで、ま、ぶっちゃけあいつが毎月来るようになるんなら俺はもう行かない、とか、今の常連たちが作ってる雰囲気にはちょっとなじめないな、みたいなこともあるんじゃないかと思います。でもそれも、その人の判断ですからね。
人づての紹介で参加者が増えてくるサロン的な場なので、どんだけ出入り自由ったって、ある程度の「党派性」が出来てしまうのは避けられない。それはもう、しょうがないんですよ。別にすべてのマンガ研究者が毎月集まって楽しく仲良くやらなくたっていいわけですから。しょっちゅう会って馬鹿話で盛り上がるという付き合い方がお互いにとって一番生産的な関係もあれば、書いたものを通じて批判したりされたり無視したりされたりするだけという距離のとり方が一番いい場合もありますからね。
二次会でのおしゃべりでのあまりのテンションの高さやカオスっぷりに引いてしまう人も少なくなかったと思います。すでに大学の先生になってた人で、いついてくれたのは筑波大学の笹本純さんくらいじゃないかな。大学院生が1・2回で来なくなるパターンも3人や4人じゃなかった気がします。ま、僕が出られなくなってからはそうでもないのかもしれませんが。
ですから、常連さんにとっての漫画史研究会と、出なくなった人にとっての漫画史研究会は全然イメージが違う、ということは十分ありえます。僕ら常連さんには見えないいやーなとこも、そりゃあ、あると思いますよ。でも、人が集まってんだから、完璧に誰にとっても快適、なんてことはありえないでしょう。ま、かなりいい線行ってるとは思うんですが。特に毎回の参加者が20名前後になるのが珍しくなくなってからは、あいつとはあんまり合わないなと思ったらあんまり近くに座らないようにする(笑)、みたいな感じで適当に距離をとることもできるようになったんで、結構いろんな人が共存できるようになったと思います。
こう書いてて思いましたが、規模は全く違うものの、結構コミケのあり方に似てるとこがありますね。「参加者」はいても「会員」はいないとことか。世話人の秋田さんは、さしずめ「ひとり準備会」ですが、でも米沢さんのように「代表」として前に出ることはないですね。
そう、秋田さんのすごいとこは、あくまで「世話人」としての役割に徹しているとこなんですよ。メーリングリストでの議論が盛んだったころ、もともと「濃い」人の集まりですから、まあ、かなり深刻なもめ方になるときもあったんですが、そういうとき、秋田さんは絶対割って入ってこない。メーリングリストの「管理人」ではあるものの、メーリングリスト上のやり取りを「管理」しようとすることは一切ない。誰かと誰かが大喧嘩になっても(ま、当事者は僕だったりすることもあるんですが)、管理人が「何もしない」ので、当事者同士が、自主的に落としどころを見つけないとしようがない。
これは、逆転の発想で、管理人が議論を「管理」しようとすると、どれだけ管理人が「中立」を心がけても、やっぱり管理人のやり方や考えを支持する側と支持しない側に、参加者が割れてしまうことが多いわけです。だいたいメーリングリストはそこで分裂したり、一定数の人がいづらくなってしまうんですが、秋田さんはほんとに一切手を出さず、自分の意見も表明しないので、なんとなーく収まっていくんですよね。
ま、そんなわけで、この会が10年続いた秘訣は、誰も誰かを「管理」したり「代表」したりしようとせず、とにかくこの場を楽しいと思う人が、楽しいと感じられる間は参加する、という原理が保たれてきたからで、それが出来たのは、やっぱり秋田さんの役割が大きいと思います。誰がいなくても回っていく会ですが、秋田さんだけはいないと回っていかないと思います。10年余りの歴史のうちの8年分しか知らない人間が言うのも少しおこがましいですが、そんなふうに思います。
このゆるゆる組織論は、会を始めて1年くらいの間には、もう、なんとなく常連参加者の間では共有されてたと思います。日本のマンガの評論・研究は在野の人の方が大学にいる人よりレベルが高い。今でもそうですが、10年前はもっとそうでした。ですから、在野の評論家の皆さんや、マンガ出版関係の方にも気軽に参加してもらえる場にしたい、という考えが、最初からはっきりあったかどうか、実は記憶があいまいなのですが、ともかく、会のノリがある程度安定した辺りで、夏目さんに声をかけ、段々と在野の人が増えてきたわけです。そのとき、この人たちが窮屈さを感じる場であってはいけない、という考え方は、別に改めて話し合うことなんかなかったと思いますが、もう僕や秋田さんやヤマダさんには共有されてたはずです。
昨日のパーティのスピーチでもちょっと話したんですが、いっとう最初の頃は、すごいちゃんとやろうとしてたんですよ。発表と質疑を全部テープに録って、当番決めてテープ起こしをして記録を残そう、とか。でも、結局誰もやらなかったんですよね(笑)。その辺りで、とにかく、そこに行けばマンガの研究に興味のある人に会える、という場を維持することが何より大事で、義務を最小限にしないといけないな、ってことに気付いたんだと思います。共同研究的なかっちりした共通の目的とかを立てちゃうと、それが達せられた時点で息が切れてしまったり、その共通の目的に賛同できない人が参加できなくなってしまうわけで、それはこの会の趣旨からすると、違うな、ということです。
そんなわけで、今となっては絶妙の組織論となっている漫画史研究会の運営方法は、ある意味では、成り行きの中で、なんとなーく、でも全くの偶然というわけでもない感じで、初期の数年の間に出来上がってきたものなのです。参加者みんなが、疲れない程度に気を配り合い、それが、うまくかみあって、うまく転がってきたと言うべきでしょうか。ま、やっぱり「幸運」とか「奇跡」という言葉の方がふさわしいんだろうなと思います。
結果的に、この会をきっかけにしてできた人脈は今やすごいものになっていて、日本マンガ学会の立ち上げや運営においても漫画史研究会の人脈がすでにあったことは大きかったように思います。ここ数年続いている、この会の(かつての、も含めて)常連さんの著作の出版や、この会の人脈が活かされた雑誌の特集が、いずれもマンガ・アニメ研究にとって画期的なものになっていることを考えても、この会がマンガ研究の世界で担っている役割の大きさ、生産性の高さは、相当なものだと思います。以下、思いつくままに挙げておきます。論文集の類に常連さんの重要な論文が載ってる、というのまで挙げてるとキリがないので、それはやめました。あと、ご本人からすると、これは別に漫画史研究会のおかげでできたわけじゃねーよ、って思われるものもあるかもしれませんが、その辺は、ご容赦を。順不同です。
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うーん、こうやって並べてみると、やはり感慨深いものがありますね。すげーな。
ともあれ、この漫画史研究会10年の成果は、マンガの「研究」をあくまでマンガを「楽しむ」ことの延長上に位置づけ、そしてまた、最終的には「楽しむ」ことに帰ってくるものと考えている人が、かなり好き勝手な関わり方ができる自由度によるものだと、昨日のパーティに出て改めて思いました。だって、夏目房之介の面白スピーチを半分くらいの人が聞いてないんですよ?ありえへんっちゅう話ですよ(笑)。
そんなわけで、一人でもやっていける人が、さらなる刺激と笑い(これ重要)を求めてやってくるこの場に、居合わせることができた幸運に、本当に感謝したいと思います。そしてもちろん、秋田孝宏さんにも、あらためて感謝を。
【追記】
boxmanさんが適切なフォローをしてくださっています。
http://d.hatena.ne.jp/boxman/20070910
僕の書き方は、常連参加者から見た側面に、ちょっと偏ってましたね。というか、「常連参加者」を軸にした語り方自体がちょっと誤解を招くものになってるかもしれません。ほぼ毎月来る人が常連参加者なら、そうじゃなく、「時々」、「興味のあるテーマのときだけ」来る人の多さがこの研究会の特徴でもあるので。