ということで、僕の担当分の2回目でした。
前回に引き続き、「指示要綱」以後に登場した「生活」重視のマンガと「科学」重視のマンガのうち、前者では僕の好きな『赤助青助』(吉田忠夫、春江堂、昭和15年)を、後者では『愉快な子熊』(芳賀たかし、昭和15年、中村書店)、さらに「空想科学漫画」としての『火星探検』(小熊秀雄・大城のぼる、昭和15年、中村書店)などを紹介しつつ、昭和16年を過ぎると、まず「空想科学漫画」の「空想」が基本的に排除されていき、やがて漫画自体がほとんど子供向け出版物の世界から消えていくことを、『汽車旅行』(大城のぼる、二葉書店、昭和17年)などに触れながらお話しました。
では、なかなか新刊の漫画本などに触れられなくなった子供たちはどうしてたかということで、昭和18年や20年に書かれた当時の子供の漫画(これもネタは内緒っす。ぷーぷかぷー)を紹介し、「空想」と「科学」と「荒唐無稽」と「悪ノリ」が見事に混在した漫画が描かれていて…、結局そこに見られるような「秘密兵器」や「地下の秘密要塞」のイメージは戦後に続いていくのです、という前回の話の冒頭に一回戻した上で、今度は、「指示要綱」に見られるような、「悪ノリ」大衆文化に対する批判もまた、この時期から脈々と戦後に受け継がれ、やがて、それ自体が「大衆化」していくのです、というお話を進めます。
そこで登場願うのが、「指示要綱」を現場の小学校教師として支持していった生活綴方教師たちで、その象徴的存在のひとりとして戦後は教育評論家、あるいは児童文学作家として広く知られることになる国分一太郎であります。国分の、相澤ときとの共著『教室の記録』(昭和12年)から、生活綴方の問題意識と実践がよく分かる箇所、そして、彼らが読ませたがっていた本を子供たちが読まず、漫画を読んでいることに触れた箇所などを紹介します。そこから見えてくる、教室の外にある子供の「生活」の全体に、それこそ家庭の事情にまで踏み込んで、「ことば」を手がかりに、まるごと関わっていこうとする彼らの熱血教師ぶりは、僕等がいつの間にか共有している、学校からはみ出してまで子供に関わってくる先生こそ「いい先生」なのだというイメージの原型になっているのでは、というお話をし、「3年B組金八先生」の原型って多分綴方教師だよね、みたいな話をいたします。
さらに、戦時期においては、結局いくつかの「空想科学漫画」を例外として、必ずしも、それを子供にも受け容れられるエンタテインメントとして実現できなかった「指示要綱」の趣旨を、見事に、高い視聴率の取れるテレビアニメにまで仕上げていく例として、高畑勲演出の「アルプスの少女ハイジ」を、その前段階の試みとしての「太陽の王子ホルスの大冒険」と続けてお見せしました。東映動画で労働組合運動の一環として「ホルス」を宮崎駿たちとともに作って行った高畑勲が、「ハイジ」についてその製作意図と方針を語った文章が、ものの見事に「指示要綱」や国分の書き物と同じ論理を共有していること、要するに、左翼的な「大衆文化批判」の論理が、そのままテレビ・アニメという「大衆文化」として成立するにいたる流れを見出すことができるのだというお話です。
「都市の・孤独な・大衆」より、「農山漁村の・共同体の一員としての・民衆」を肯定的に描き出していくその世界観は、もちろん宮崎駿の「となりのトトロ」にも受け継がれているわけですから、クライマックスの、迷子になったメイを村中の人たちが総出で探す場面をお見せした上で、これによく似たエピソードの出てくる、宮本常一の『忘れられた日本人』に収められた「子供をさがす」という小文を紹介し、同じ昭和30年代前半頃の同じような日本の田舎を、ほぼ同じような肯定的な郷愁とともに描き出す両者の間の微妙な違いについて触れて、重信先生が最初に投げかけられた、大衆文化も民俗学も、同じ近代の産物だというお話に改めて触れる形で締めくくったのでした。
今日は、鼻声は相変わらずでしたが、体調は先週よりははるかによかったこともあり、非常に気持ちよく、講義できました。重信先生の2回の講義と僕の2回の講義が、きれいにループを描いてまとまりつつ、今後の議論にもつないでいける論点が出せたかなと、自画自賛したいのでありました。学生さんも、多少人数は減ってきましたが(おい)、集中して聞いてくれたと思います。面白かったかどうかは、さて、この後授業用掲示板にどんな書き込みがあるか、を見なければなりません。
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