宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

中野晴行『マンガ産業論』

マンガ産業論

マンガ産業論

 著者の中野氏は、昭和20年代から30年代の「赤本漫画」、および「貸本漫画」の作り手たちの世界を、当時の描き手と出版関係者への綿密な取材によって描き出した『手塚治虫と路地裏のマンガたち』
手塚治虫と路地裏のマンガたち

手塚治虫と路地裏のマンガたち

および、手塚治虫を育てた文化的背景としての宝塚、および阪神間の沿線文化を、手塚作品と関連付けて考察した『手塚治虫タカラヅカ
手塚治虫のタカラヅカ

手塚治虫のタカラヅカ

の2冊によって、既にマンガ史の研究に多大な貢献をなしておられますが、本著によって、戦後日本のマンガ産業の歴史的な発展の経緯を、膨大かつ多種多様な資料の収集と、業界関係者への地道な取材活動によって、実証的に解き明かすという、マンガ研究の世界で長年待ち望まれていた課題に取り組み、極めて説得力の高い見取り図を提出することに成功していると言えます。
 日本の児童文化を考える上で無視できない領域としてのマンガの、世界に類を見ない発展の要因を、すぐれた作家・作品の存在のみによって説明するのでなく、すぐれた作家にすぐれた作品を生み出させ、それを広く読者に届けていく仕組みとしての、出版・流通から消費にいたる産業構造論の視角から捉える非常に重要な仕事です。今後、こうした産業構造(とその変遷)のありようが、作家・作品のありよう(とその変遷)にどのように反映されるのか、その関係性について、作家論・作品論と合わせ、深く考察した著作をものされることを期待する次第です。

そんなわけで、浅岡さん、中野さん、本当におめでとうございます!土曜日の授賞式でお会いしましょう。