浅岡靖央『児童文化とは何であったか』
- 作者: 浅岡靖央
- 出版社/メーカー: つなん出版
- 発売日: 2004/07
- メディア: 単行本
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この時期の「児童文化」運動は、日本独自のものと言われる「児童文化」概念の社会的な普及に大きな役割を果たしただけでなく、波多野完治、菅忠道、滑川道夫ら、戦後日本の児童文学・児童文化研究の基礎作りに中心的な役割を果たした人々が関わったものでもありました。したがってその研究は、単に児童文化史研究の1テーマというにとどまらず、いわば戦後日本の児童文学・児童文化研究者の直接のルーツを戦前・戦中の社会・文化状況の中に置き直して根本的に再検討するという、極めて重要な意味を持っていると言えるでしょう。
この著作において著者は、この課題に、よくこなれた文章をもって答えており、複雑な歴史的経緯とその問題点を明解に整理しておられます。そしてそこに描き出された「児童文化」運動のはらむ諸問題、その可能性と限界は、そのまま現在にもなお生きているものだと考えることもできます。
漫画との関わりで言えば、戦時期の「児童文化」運動が「指示要綱」の作成やそれに基づく統制の過程への積極的な参画という側面を持ち、そこに同時代の子供向け物語漫画への批判的な問題意識が契機として含まれているというのみならず、その運動の論理と担い手が、戦後の悪書追放運動においても、(行政との積極的な連携を選ぶか、徹底して在野の立場で行なうかという立脚点の違いはあるにせよ)基本的に変わっていなかったという点を押さえておくべきでしょう。そして、今日もなお、漫画が「子ども」との関わりにおいて「問題」化される時の構図は、そこからほとんど変わっていないように思えるのです。
したがってこの著作は、単に「戦時期日本の児童文化史研究」の一書としてでなく、今日、児童文学・児童文化に関心を持つ全ての人に読まれるべきものであり、また児童文学・児童文化研究の側から、文化史・社会史・教育史全般、そしてもちろん、漫画史にも向けられた問題提起として、受け止められるべきものであると言えるでしょう。