宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

北九州市環境ミュージアムの見学

 今日は午前中、市の漫画ミュージアム担当者のお三方と一緒に、北九州市環境ミュージアムの見学に行ってきました。
 この環境ミュージアム、恥ずかしながら僕もその存在を今回初めて知ったのですが、参加型・体験型のミュージアムとしていい感じに機能しているということ、また、展示施設の規模が比較的小さく、今度の漫画ミュージアムに近いため、いろいろ参考になるだろうということで、市の担当者の方が誘ってくださったのでした。
 リンク先のホームページをご覧いただければわかりますように、展示スペースの造作は結構派手な感じなのですが、これらは2001年に行われた「北九州市博覧祭2001」のパビリオンで使われていたものだそうで、見た目は派手で、ボタンを押すと解説映像が流れる式のものが多いものの、解説映像が終わらないうちに子供たちは飽きてしまうことが多く、また、リピーターにとっては一度見たら十分、ということになってしまうということで、じゃあどうするか、というところにこのミュージアムの努力と工夫が込められているわけです。
 これもリンク先のホームページにありますが、このミュージアムにはインタープリターと呼ばれる展示解説員が常時何人も待機していて、それらのただ見るだけだと飽きてしまいかねない展示物に、さらに興味を持って接してもらうための働きかけを観客に対してしてくれます。それも単に「これは・・・です」的な、解説キャプションにあることを口で言うだけの「解説」ではなく、「この写真に写ってるおじさんって○○町の××豆腐店のおじさんなんよー」、みたいな、おもわず「えっ?」と写真を見直してしまうような声のかけ方なんですね。
 煤塵でぼろぼろになった雨どいなど、展示品の多くは実際に手にとって触れるようになっていますし、引出しをあける、ファイルをめくる、といった手を使わせる工夫もふんだんに盛り込まれています。観客の年齢に合わせたクイズが用意されていて展示を見ながら解いていく、といった工夫もなされています。また、展示替えのできない大きな造作物の隙間にはインタープリターのみなさんの手作りの小さなポスターや工作物が置かれていて、これらはまめに展示替えが行われるのでリピーターにとっても毎回少しずつ新しい見どころがあるように、という配慮がなされています。
 基本的に若い人が中心のインタプリターのほかに、逆に基本的にご高齢の解説ボランティアのみなさん「環境学習サポーター」も三つのコーナーにそれぞれ複数待機していて、手動の発電機を使わせながら楽しく発電の仕組みを教えてくれたりします。
 要するに、展示品を解説パネルと一緒に並べて、さあご覧あれ、では、解説パネルを丁寧に全部読む人など一般の美術館博物館でもめったいにいないわけで、北九州市の公害の歴史から環境問題への関心を説き起こす施設となればなおさらだと。そういうときに、展示の仕掛けをよりハイテクにする派手にする、ではなく、展示したいもの見てほしいもの感じてほしいことと観客とをつなぐ「人」に重点を置いているわけです。その結果、「観客」をたんなる「観る」「客」ではなく、参加者・体験者にしていくことを可能にするのがこのインタープリターとサポーターということになるんですね。
 インタープリターという言葉は初めて聞きました。interpretationは人文社会系では「解釈」と訳すのが普通ですが、調べてみたら、環境教育の用語として、下のような定義が与えられているようです。

自然観察、自然体験などの活動を通して、自然を保護する心を育て、自然にやさしい生活の実践を促すため、自然が発する様々な言葉を人間の言葉に翻訳して伝える人をいう(interpret=通訳)。一般的には植生や野生動物などの自然物だけでなく、地域の文化や歴史などを含めた対象の背後に潜む意味や関係性を読み解き、伝える活動を行なう人を総称していう。一般には、自然観察インストラクターなどと同義に用いられることも多い。
(EICネット「環境用語集」http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=156

 これを、環境教育系のミュージアムにおける展示解説員にも適用しているということなんですね。北九州以外にも先行例はあるようです。
 今日見て思いましたが、まさにこういう参加型・体験型のミュージアムにしたいと、僕も市の担当者のみなさんも思っていたので、非常に刺激的でした。今日、館の案内をしてくださった、ミュージアム次長の方が、またご自身もインタープリターの仕事をされているので、どういう展示が素通りされがち飽きられがちなのか、どうすれば人を引き付けられるのか、すごく説得力のある話をしていただきました。うん、このまんま、というわけにはいかない部分もあるけど、活かせる部分はすごくたくさんあると思います。
 問題は、こういう参加型・体験型ミュージアムのイメージを、僕以外の基本コンセプト検討委員のみなさんがおそらくほとんどご存じないことなんですよね。でーんと立派な展示品が並んでる厳かな空間、あるいはハイテクのデジタル映像をふんだんに使った「未来型」のミュージアム(それって実は19世紀からの「万国博覧会」的な「未来」イメージの延長上にしかないものだったりするんですが)しか描いてもらってない感じが、前回の委員会ではしたのでした。ま、その辺は次回の委員会の時に、さらに説明できるようにがんばりたいと思います。京都の国際マンガミュージアムだって、基本的にはコレクションや展示の仕掛けのすごさより、こうした参加・体験の部分に、いい工夫が多いわけですし。
 あ、そうだ、西日本新聞の記事の「下」、読みました。北九州がどういう施設を目指しているかを簡潔に解説しつつ、全国のマンガ関連ミュージアムの連携の必要性を述べる形でまとめてくれていて、当事者としても勇気づけられる記事でした。ネット上では読めるようにならないようなので、九州・山口地域以外の方は、少し大きめの公立図書館に行ってみてください。中日新聞西日本新聞のようないわゆる「ブロック紙」は結構置いてありますんで。