宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

11月24日、高橋真琴&藤本由香里−少女マンガの源流をたずねて−

 おかげさまで、すごくよいイベントになったと思います。キャパ250人という立派なホールを使ったので、いささか少なめに見えたお客さんの数ですが、僕は正確に把握してないものの、60名前後の方においでいただいたと思います。これ、できたばかりの地方部会のイベントとしては、すごい動員力だと思いますよ。しかも、福岡市じゃなくて久留米市でやってるわけですから。
 で、ほんとに重要なのは、お客さんの人数よりも、お客さんの満足度なわけで、その点でこそ、このイベントは大成功だったのではないかと思います。
 お話の大きな流れとしては、『少女ロマンス』所収の高橋先生へのインタビューをなぞりつつも、藤本さんが用意して来られた膨大な原資料のコピー(貸本時代の作品や『少女』誌所収の作品など、当然初出媒体からのカラーコピーです)をほとんど常にスクリーンで見せつつ、これをお描きになったときは…、とか、この瞳のここのところは…、このコマ割りって…、といった具合に、ぐいぐい細部に踏み込んだ質問も投げかけられ、高橋先生が時におおらかに、時に熱く、お答えを語られます。
 入念な調査に基づいた藤本さんの質問は、やがて同時代、あるいは少し早い時期の作家たちの作品をも見せつつの比較検討に入り、少しニュアンスを頭の中で変換しつつ聞いていると、まるで、「もう調べはついてるんだ」「少女マンガを変えたのはあんたなんだろ」と詰め寄る刑事のようでもあり(いやもちろん半分誇張ですが)、高橋先生もまた、のらりくらりと「いや、そんな大それたことは」とか「ただ無我夢中だったんで、そんなつもりでやってたんじゃ…」とかわし続ける犯人のようでもあり、それが「少女マンガのスタイルを確立する」という事態をめぐっての話であるだけに、なんだかとても楽しく、また極めて充実した時間だったのでした。


 質疑の時間もたっぷり30分、フロアから活発な質問が出て、高橋先生もまたそれに丁寧にお応えになる充実したやり取りになりました。その中で特によかったのは、リアルタイムで『少女』掲載作品を読んでおられた地元の女性の方とのやり取り。えーるピアにあったチラシを見て、「本当に『あの』マンガを描いた人が来るのかしら」と思ってやってきて、今日初めて先生が男性であることを知りましたとおっしゃるその様子が、本当に感激に打ち震える様子で、会場みんな軽い感動状態。タイトルを忘れてしまったのだけれどピラミッドの出てくるお話をお描きになっていて、あの続きはどうなったのかしらとずっと思い続けてきましたと言うと、高橋先生がそれは(代表作の一つ)「プチ・ラ」ですね、あれは、いろいろな国を旅していくのです、とお答えになります。そうした一連のやり取りが、本当に、なんか、よかったんですよ。打ち上げの場でも部会のメンバー一同、ほんとにあの方を高橋先生に引き合わせられただけで、この会は大成功だったねと語り合ったくらいでした。


 僕は、舞台の袖で客席の照明のコントロールをスタッフの方にお願いしたりしていて、必ずしもずっとトークの内容を、見せられている図版とともにしっかりうかがうことができなかったのですが、質疑の際に、「プチ・ラ」の原作者であり、現在は「渡る世間は鬼ばかり」の大脚本家、橋田壽賀子さんとの、「プチ・ラ」当時の仕事上のお付き合いについてうかがえたのがよかったです。


 イベント終了後も、観客の皆さんが次々に高橋先生の周りに集まり、先生も丁寧に丁寧に対応なさいます。共同通信朝日新聞西日本新聞とマスコミの取材もあり、藤本さんもなかなか控え室に帰れません。結局打ち上げ会場への異動が予定よりだいぶ遅れるくらい、おいでいただいたみなさん、余韻をたっぷり楽しまれた会になりました。


 打ち上げは、久留米の「酒蔵・松竹本店」。部会のメンバーだけでなく、取材に来られていた記者の皆さんや、手伝ってくれた僕のゼミ生2人、東京から駆けつけた小学館クリエイティブのお二方、など十数名で高橋先生ご夫妻を囲み、おいしい料理をいただきつつ、先生のお話をさらにうかがいつづけて、もうほんとに満腹、のはずなのに、さらに先生が泊まられる福岡のホテルへ移動する西鉄電車の車中でも、お話は続きます。ていうか、みんな先生に聞きたいことがたくさんあって仕方ないんですね。
 ちなみに僕は電車で高橋先生の奥様の隣に座らせていただき、奥様は実は小学館学年誌の編集をされていて、高橋先生の担当になったことはないけれど、マンガ家では今村洋子、北島洋子(当時16歳!)、山田えいじなどを担当されたことなどをうかがいました。というか、奥様の話もじっくりうかがうと相当マンガ史的に重要なお話がたくさんうかがえるのでは、という気がしました。


 福岡・天神で高橋先生ご夫妻をホテルにお送りした後、すでに0時になろうとしているのに、当然のように藤本さん始め、部会の面々は二次会へ。お店が閉まる4時半まで、宴はえんえんと続いたのでした。


 いやー、それにしても濃厚な一日でした。同じ日、京都では国際マンガミュージアム開館記念のトークイベントも催されていたのですが、夏目さんのブログでの報告を読む限り、この夜、少なくともマンガ史研究の最前線は、京都ではなく久留米にあったなと思います。ま、向こうはどうしても総花的な内容にならざるを得ないイベントだったわけですが。
 今回のイベントの段取りをされた大城房美さん、そして一般の方にも分かりやすく、かつ、「その先」へ一歩踏み込んだトークを巧みに進行して下さった藤本さん、長時間にわたって貴重なお話、というだけでなく、なんだか心が洗われるようなお話を聞かせてくださった高橋先生、本当にありがとうございました!

高橋真琴先生のホームページができています。ぜひご覧ください。
http://www.macotogarou.jp/index.html

少女ロマンス―高橋真琴の世界

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MACOTOのおひめさま

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高橋真琴の少女ぬりえ 日本のおひめさま

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高橋真琴の少女ぬりえ 世界のおひめさま

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