宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

映画「鈴木先生」、すばらしいですっっ!!!

 私をおやりなさい!!!


 と思わず、僕の大好きな足子先生の名ゼリフで始めてしまいましたが、昨日、映画「鈴木先生」(2013年1月12日公開)の試写を見てきました!
 公式サイトで紹介されている以上のネタばれはできないんですが、ああっ、原作と比較して比較して比較し倒して論じつくしたいっ!それくらい、見事なアレンジが施されています古沢良太脚本、そして河合勇人演出。原作の武富健治さんが「神アレンジ再び」と言っているのはただの宣伝文句じゃないです。


 昨年放送のテレビドラマ版では、原作7巻分を1時間×10話にしていたので、今回の原作4巻分は、同じペースでやれば5時間以上かかるわけです。それを2時間と少しにまとめているので、かなり思い切ったエピソードの削除は行われています。
 しかし、その落とされたエピソードの中にある、重要な部分(たとえばセリフ)は、別の場面で別のキャラクターが、その意味を損なわない形で担っている、というていねいな操作が随所に見られ、本質的に残してほしい部分は可能な限り残してくれているんですね。この辺が神アレンジと言われるゆえんですし、古沢さんがいかに原作をきっちり読み込んでいるかが伝わる部分でもあります。


 そして、テレビドラマ版からこの作品のファンになった方に、全力でお伝えしたいのは、みなさんの期待には120パーセント応えてくれます!ということです。あの要素もあの要素もあのキャラの見せ場もあの役者さんの演技も、全部ちゃんとある、だけじゃなく、ドラマ版の2割増しの力とクオリティで入ってます。


 僕はテレビドラマ版の続編や完結編を映画で、という最近多いメディアミックス展開のコンテンツには実はあまり触れていないので、それらとちゃんと比べて論じられないんですが、そうした作品に対してよく言われる、映画単体として自立していない、という批判は、見当はずれな批判だよなと思ってました。ずっと一人で、あるいはせいぜい数人で、テレビ版を見ていたファンが、数百人が一度に集まれる劇場に集い、みんなで同じコンテンツに盛り上がるお祭りのようなイベント性、というのがこうした作品の映画版の商品価値なのは当然だろうと思ってましたし、今も思ってます。


 僕が実は少しだけ不安に思っていたのは、ドラマ版のクオリティがハンパなかっただけに、そしてもともと映画の制作会社が作っている作品だけに、映画版は独立して単体で成立しうる作品に、という方向を目指してしまってかえって原作ファンをがっかりさせることにならないだろうか、ということでした。でも、それは杞憂でした。
 史上まれに見る低視聴率ドラマを、映画化にまでこぎつけさせた熱心なファンのみなさんの、熱意に全力で感謝するお祭りとしての性格を、この作品はきっちり備えています。残念だったのって、竹地が背が伸びちゃってて、普通にカッコよくなっちゃってることくらいですよ(笑)。


 そしてすごいのは、ドラマ版も原作漫画も見ずに、いきなりこの作品を見た場合、おそらく、この作品の面白さをきちんと感じつつ、しかも、それにとどまらず、さかのぼってドラマ版を見たい、原作を読みたい、という欲求不満を喚起されるように、できているということです。
 下手に映画単体として独立した作品にしようとなどしていないのがかえっていいのです。ドラマ版から追いかけている熱心なファンでなくても、置いてきぼりにはされない程度に今までのポイントを随所で紹介する親切さと、「えっ、何この作品?」と思わせる、何だかよく分からないけど、これは面白いものに違いない!と思わせるインパクトがあるので、この作品からいきなり入ることもできるし、なおかつ、この作品単体で満足してしまうことなく、ドラマ版へとさかのぼらせる力が生まれているのです。


 ううっ、もうすでにちょっと語りすぎですが、最後にこれにも触れておかずにはいられません。ユウジ役の風間俊介さんの演技の見事さです。今さら僕が言うまでもないことでしょうが、いやほんとすごい役者さんですね。
 実はユウジの性格造形や設定は、かなり原作から変更されています。この変え方も古沢さんの作品理解の深さを示すもので、素晴らしいのですが、その結果、ユウジというキャラクターを演じることの難しさは、さらに増しています。役者さんがダメだと、かえって失敗に終わるような変更なのです。
 

 実際、このセリフの言い方一つ、声の出し方一つ、表情の作り方一つ間違えた瞬間、いきなり「寒く」なって、全てが台無しになりかねない、難しい演技を要求されるセリフや場面がいたるところにあるのですが、それら一つ一つを、もうそれしかない、という完璧さで演じきっていると思います。


 この風間さんという要素が加わったことで、この作品は、ドラマ版にあったものが全部2割増しで入っているという以上の、スペシャルな要素を加えたものになっています。そしてそれは、先ほど述べた、この映画版から入っても何だこれはと観客を惹きつけ、ドラマ版へとさかのぼらせる力にもつながっています。


 いやー、こんな素晴らしい結末を、「鈴木先生」の実写ドラマ化というプロジェクトが迎えるとは、本当に感無量というか、原作を熱心に応援してきた者としても、本当に幸せです。
 

 残念ながら今のところ、あまり多くの劇場で公開される予定になっていません。でも今度は、興行成績は悪かったけど評価は高かったってことにしたくないじゃないですか!思いがけないロングランになり、じわじわ公開規模が大きくなる、みたいな展開を見たいじゃないですか!原作ファンのみなさんも、ドラマ版ファンのみなさんも、どんどんこの作品の良さを拡散して、何度も劇場に詰めかけて、祭りの日が少しでも長くなるよう、規模が少しでも大きくなるよう、応援していってもらえればと思います!