宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

「府民は税金払ってるじゃないですか。」で言いたかったことなど補足します

 昨日のエントリ、なぜか「最近の人気エントリ」になってしまい、普段の10倍くらいのアクセス数になっていて、ブックマークコメントもたくさんいただいております。
 コメントを拝見したうえで、改めて読み直したところ、ちょっと補足・訂正しないといけないと思いましたので、追記として、このエントリを立てることにしました。


 ブックマークコメントで批判的なご意見を記されている方は、主に「府民は税金払ってるじゃないですか。」の一文に反応されているようです。確かにこの一文は少しうかつな表現だったかなと思います。
 何となく知事の論調に合わせてしまっていましたが、重要なのは、税金を払っていようと払っていまいと、府民には府政に対して意見を言う権利があるはずであり、府民に選ばれた府知事が、今まで府議会で認められてきた府民の税金の使い方を継続するよう求める府民に向かって、意見を述べたいならまず金を出せ、というようなことを言っていいのだろうかということでした。
 知事の論調では、びた一文払ってない府民が、行政に物乞いをしているかのような構図になっていますが、府知事の給料も含めて府の行政自体が府民の税金で支えられているのですから、府民から負託された税金の運用方法について、府民が要望を申し述べるのは当然の権利ではないでしょうか。
 一般論としても、納税義務をきちんと果たしている住民、あるいは納税の義務を持たない状況にある住民に対して、「署名とかそんなことするんだったら、金出してくれっていうのが根本にあるんですけれどもね」などと、納税義務以上の金を出さない限り、要望の内容と理由を説明するだけでは、行政に耳を傾けてもらえないのは当たり前と取られかねない発言を、府のトップが平気でしていいとは思えません。
 また、府の財政改革が、府民からの税金の運用方針の変更を伴うものである以上、その変更の根拠と、変更の結果、府民にもたらされうる不利益について、十分な説明を行う責任は、当然府民ではなく府の側にあるわけですが、存続を要望する側としては、今の知事の発言や改革PTの現状分析や改革案を見る限り、その説明責任は十分果たされておらず、そもそも児童文学館の価値を十分理解した上で、府の財政全体の中での優先順位が付けられているとは考えられないので、日本マンガ学会からの存続要望書にしても、日本書籍出版協会からの存続要望書にしても、かなり意を尽くした説明をした上で、とにかくとりあえず待って下さいと、この館の付加価値をさらに高め、また入館者数を増やすための方策を、一緒に議論する時間を下さいと訴えているわけです。自分たちは汗もかかず、この館の活動の社会的な意義の説明もせず、この先何の協力もするつもりもないのに署名だけ集めているわけでは決してありませんし、府の財政改革の必要性を無視しているわけでもありません。


 一般に近代の社会において、地方自治体や国の行政・財政の全容と問題点を把握し、どのような将来像のもとに、どのような改革を行う必要があるかを総合的に判断することは、一住民には不可能ですし、住民全員がその判断の過程に全面的に関与することのできるシステムを作ることも不可能です。不可能だからこそ、大阪府であれば、府議と府知事と府の職員に、その総合的な判断の仕事を負託しているわけです。
 したがって、府民には、府の行政について、自分たちの税金で働いてもらっている府議や府知事や府の職員に、自らの希望を申し述べる権利がある一方、その希望に対する対応を府政全体の中でどう位置づけるかを決める最終的な過程には直接関与できないのが普通だと思います。ということは、逆に言えば、一般府民には、自分たちの要望を行政に訴えるに際して、府の財政状況等の全体のことを知事や府議や役人並みに把握しておかなければならない責任はないはずです。
 これは、知事の方針を支持し、知事の方針や改革PTの試案への「反対に対する反対」を表明されている方に多い論調ですが、児童文学館の存続を、利用者である自分たちにとっての価値、および、児童文学館の機能全体の社会的な意義まできちんと説明しながら要望する府民に対して、府の財政全体を理解してから物を言え、それができないなら黙っていろ、というのは、いささか過剰な要求ではないでしょうか。
 何度も繰り返すように、存続を要望する側も、財政改革の必要性そのものを否定しているわけではないですし、就任して半年にも満たない知事の認識や発言も、改革PTの試案も、あくまで、正すべき余地の十分ある、議論のたたき台にすぎないはずであって、それに対して府議会で決着がつくまで、出来る限りの意見表明をすること自体を否定するような論調には、同意するわけにはいきません。


 「府民は税金払ってるじゃないですか。」の一文で言いたかったのは、以上のようなことです。


 そのうえで、しつこいようですが、確認しておきますと、昨日のエントリで訴えたかったのは、そのことだけではありません。
 まず、府外の人間にも要望を申し述べる権利はあるし、その権利を行使する上で相応の責任はすでにそれなりに果たしているし、これからも果たすつもりである、ということ。私自身そうですが、児童文学館は府外から多くの人を呼びうる施設です。観光施設について、府外からの利用者に対して、まず住民票を府に移してから文句を言え、などという意見は成り立たないことを考えていただければ、府内に住んでいなくとも、この施設を現に利用し、そのために大阪府内で宿泊し、飲食をし、地下鉄とモノレールに乗って、大阪府の経済の活性化と人の動きの活発化にささやかにではあれ貢献している利用者と、将来そうなりうる人が、意見を述べる権利は当然あることも、理解していただけるのではないでしょうか。
 それから、児童文学館が、そのほとんどが府外に存在する民間の企業や団体から、年間9000万円もの寄付を得て、運営費の3分の1をその寄付で賄うシステムを構築できていること、それはまさに、ハコモノとしての施設や、70万点の資料に対してというより、それを管理・運営する財団の機能によるものであり、その財団を廃止して資料のみを、しかも「整理」したうえで府立図書館に移管することは、この官民協働のシステム自体を放棄することにつながるという、極めて重要な事実を、認識していないのならどうか耳を傾けてください、もし意図的に言い落しているのなら、そんな情報操作ははやめてください、ということ。
 この二つが、昨日のエントリの見過ごしていただいては困るポイントでした。
 また、この問題に関して、当ブログでは、すでに1カ月以上、できる限りの説明を行ってきています。ブックマークコメントのうち批判的なものに対しての応答は、ほとんどそれらのエントリでできているはずですので、お手数ではありますが、このエントリのタグの「大阪府立国際児童文学館関連」というところをクリックしていただいて、今までのエントリ、およびそこからのリンク先にお目通しをいただければと思います。


 あ、あと、もう一つだけ。今日びっくりしたニュース。これは、もっと、あんまりじゃないですか?

 大阪府橋下徹知事直轄の重要政策プロジェクトチーム(PT)が近代的建築物や古墳などの名所をライトアップして府内全域をひとつの博物館に見立て、にぎわい創出を図る「大阪ミュージアム構想」(仮)を検討していることが17日、分かった。御堂筋イルミネーション計画もこの一環で、100億円以上の出費となる可能性があるという。橋下知事は「大阪独特の“空気感”を出したい」と構想に強い意欲を示しているが、厳しい財政再建を進めるさなかでの提案とあって、反発も想定される。

(中略)

 今回、浮上した「大阪ミュージアム構想」は、光る御堂筋計画に加え、大阪市中之島周辺の近代建築物▽江戸時代の街並みが残る富田林市の寺内町岸和田市岸和田城周辺▽世界文化遺産への登録を目指す百舌鳥・古市古墳群−など、府内の名所をライトアップする計画。

 名所それぞれを一つの芸術作品として見立て、府全体を博物館として位置づけてPRする狙いがあるといい、6月上旬に示される重要政策PT案で詳細を明らかにする見通しだという。

 経費面では、光る御堂筋計画だけでも10〜20億円の費用を見込んでいるため、ミュージアム構想全体の実現には、100億円単位の予算がかかることも想定。福祉、教育など住民の暮らしに直結した施策など約1100億円のカットを盛り込んだ財政再建試案が提示されているだけに、反発は必至とみられている。

MSN産経ニュース2008.5.17 14:57
http://sankei.jp.msn.com/politics/local/080517/lcl0805171458004-n1.htm


 これが「文化的な景観、環境を整えて、文化が生まれるような都市づくりをすること」なんですね・・・。100億円て。児童文学館の運営費50年分ですよ。