宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

橋下知事、いくらなんでもその言い方はあんまりです

 15日に行われた、大阪市の平松市長、および児童文学館の所在地である吹田市の阪口市長との会談の中で、児童文学館について橋下知事が行った発言は、見過ごせないものだと思います。
 まず「激論」と報じられている大阪市長との会談から。

 平松 文化事業は、今切ってしまえばもう一度立て直すときに何年かかるねん、というものが山ほどある。


 橋下 残ったものこそ文化だとぼくは思う。府民が署名を集めているが、本当に残したいなら1人千円でも出すべきだ。府民が金を払ったうえで行政がサポートするならわかるが、初めから行政が金をつっこんで守っていこうというのはどうか。


 平松 (アフガニスタンの)バーミヤンでは(タリバンが)洞窟(どうくつ)の大仏を壊した。残ったものが文化で、皆で力を合わせて守ってきたものが一切文化でないというのは暴論としか思えない。大勢が賛成したら残す、賛成が少なかったら残さない。そういう数の判断はやめてほしい。


 橋下 数で判断はしていない。


朝日新聞、2008年5月16日)
http://mytown.asahi.com/osaka/news.php?k_id=28000000805160002

■文化施策 

 平松 大阪市や府、経済界などの力を合わせて守り育ててきた経緯がある。財政が苦しい時代であっても、子どもたちにどれだけの刺激を誘発できるのかを考えると、単に切ってもいいのか。決断する時には、府職員だけでなくいろんな人の意見を幅広く聞くゆとりを持ってほしい。

 橋下 行政が特定の文化を育てるというおこがましいことは考えずに、文化的な景観、環境を整えて、文化が生まれるような都市づくりをすることによって文化が醸成されるのではないか。

 平松 国や府、経済界の協力があったからいいステージも守れてきた。市単独なら守れたかどうか。文化は府民の財産だ。今切ると立て直すのに何年もかかるということを考えていない。

 橋下 府庁内では反対意見を受けているが、僕は最終的に残ったものが文化だと思っている。

 平松 みんなで力を合わせて守ってきたものが文化ではないというのは暴論だ。

 橋下 市民が署名だけでなく1人1000円出してくれれば残る。残そうと思うなら負担もしてほしい。

毎日新聞 2008年5月16日 地方版)
http://mainichi.jp/area/osaka/news/20080516ddlk27010674000c.html

 「文化論争」について、橋下知事は報道陣に「僕とはまったく違う文化論。また議論したい」。平松市長は記者会見で「自分の思いを言うだけでなく、議論を重ねていい方向に向けていただきたい」と“独走”にクギを刺した。

毎日新聞 2008年5月16日 大阪朝刊)
http://mainichi.jp/kansai/hashimoto/news/20080516ddn041010014000c.html

橋下知事「署名するなら金をくれ」


 大阪府橋下徹知事が進める文化施設の廃止や統合をめぐり、知事と大阪市平松邦夫市長が15日の会談で、激論を交わした。

 口火を切ったのは市長。「みんなで懸命に守ってきた文化を財政だけで切っていいのか。立て直すにも時間がかかる」と橋下知事に苦言を呈した。

 すると知事は「行政が特定の文化を育てると考えるのはおこがましい。残った物が文化だ」と即座に反論。

 平松市長も「弱いながらも守ってきたものが文化でないというのは、暴論だ」と言い返した。

 収まらない橋下知事は、上方演芸資料館ワッハ上方)の移転や国際児童文学館の統合などに反対署名が寄せられていることを念頭に「府民や市民は署名はするが、お金を出してくれるのか」とヒートアップ。

 「本当に文化を残すつもりなら1人1000円でも出してくれればいい」とまくしたてた。

 この後、橋下知事は記者団に対しても同様の発言。「署名とかそんなことするんだったら、金出してくれっていうのが根本にあるんですけれどもね」と述べた。

(日刊スポーツ2008年5月16日2時35分)
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp3-20080516-360405.html

  

 読売や産経も見ましたが、上の4つの記事がしっかり発言を押さえていると思われました。
 その中でも、2番目に引用した毎日の記事が特にしっかりしていると思いますが、この中で知事の言う、「行政が特定の文化を育てるという」のは「おこがましいこと」だという考えは、一応ありうる考え方ではあるかと思います。しかし、ならば「文化的な景観、環境を整えて、文化が生まれるような都市づくりをすること」の方は、なぜ「おこがましいこと」にならないのかがよくわかりません。知事が謳っている御堂筋のイルミネーションに「行政が金をつっこんで」20億円もかけるのが、「文化的な景観、環境を整えて、文化が生まれるような都市づくりをすること」だとお考えなのでしょうか。
 いずれにしても、「最終的に残ったものが文化だ」という、ここでの知事の考え方は、文化行政というもの自体をほぼ全否定するものではないかと思います。平松市長の言うように、今は経済力を持たないけれども、将来の大阪府の発展を担う可能性を持つ「子どもたちにどれだけの刺激を誘発できるのかを考えると」、今現在その文化の存続・発展にお金を払うことのできる人がどれだけいるかという基準だけで、行政が支援するか否かを判断するわけにはいかないはずです。
 それから、さらに大問題なのが後半の発言です。


 「府民が署名を集めているが、本当に残したいなら1人千円でも出すべきだ。府民が金を払ったうえで行政がサポートするならわかるが」。


 ええええ?府民は税金払ってるじゃないですか。税金払ってない府外の人間がつべこべ言うなっていうんならまだわかりますけど、府民に対して知事がそれを言ってしまったらまずいんじゃないですか?それに1人千円でどうにかなるんなら、児童文学館で言えば、2階の研究閲覧室は入室料取ってもいいと思いますよ?学生と65歳以上の方は300円、一般600円とか。あと、存続要望書に名を連ねている人たちに協力してもらって児童文学館でしか買えないオリジナルグッズを作って、館内にショップを設けて売るとか。これらは今のところあくまで僕の私見ですけど、案として検討する価値はあると思います。その程度のアイデアもないのに、もう再考の余地はないみたいな言い方しないでもらいたいです。
 それから、税金払ってない府外の人間としては、以前のエントリでも書いていますように、署名運動を、利用者、および著名人による、館の広報活動への協力だと考えれば、それは相当な額に換金できるはずの規模に今やなっています。先日来、朝日が手塚治虫文化賞で全国にこの館の業績を報道してくれてるわけですが、これを同じ朝日で新聞広告としてやろうとしたらものすごいお金がかかることくらい、知事だってご存知でしょう。賞金も百万円くれるって言ってるわけですし。今日、第二段の存続要望書を出した著名文化人の一人である香山リカさんが、手塚文化賞の審査委員であることを考えても、署名を含む存続要望運動になんら経済的な効果がないかのような言い方は、事実の著しい矮小化です。
 そして最も大きな問題として、5月14日のエントリでふれたように、児童文学館は毎年、年間9000万円もの支援を民間から得ているにもかかわらず、知事は、自分も臨席した改革PTと担当部局の議論の際に説明されたはずのこの事実に一切触れず、「署名とかそんなことするんだったら、金出してくれっていうのが根本にあるんですけれどもね」などと繰り返していることが挙げられます。しつこいようですが、金は、出してもらってるんですよ。教育委員会からの説明を聞いてなかったんでしょうか?聞いててこんなことを言っているとすれば、もはや悪質な情報操作であると言うほかありません。
 この点については、朝日も毎日も読売も産経も、ほんとお願いしますから報道して下さい。


 で、この「激論」の勢いが残っていたのか、続いての吹田市長との会談でも、児童文学館については、次のようなやり取りが報道されています。

 橋下知事は15日、吹田、摂津両市を訪れ、PT試案などについて両市長と意見を交わした。試案で廃止とされている吹田市の府立国際児童文学館について、阪口善雄・同市長は存続させるよう求めたが、橋下知事は「(廃止後の)建物の有効活用を考えてほしい」と応じなかった。

 阪口市長によると、同文学館の存続に向け、貸し出し業務にあたる司書の派遣を、府側に打診しているという。

(2008年05月16日 読売新聞)
http://osaka.yomiuri.co.jp/tokusyu/h_osaka/ho80516c.htm

 4時33分 吹田市役所へ。阪口善雄市長に「知事がつくった舞台で芝居をさせられている。知事は主役兼監督だ」と言われ、苦笑い。同市内の府立国際児童文学館について、「蔵書を他の図書館に移した場合、市で建物を活用してもらえまえすか」と質問。

産経新聞「橋本日記」(15日)
http://sankei.jp.msn.com/politics/local/080515/lcl0805152311003-n1.htm


 うーん、一切、聞く耳持たないおつもりなんでしょうか。こうなってくるとやはり頼りは、より多くの声ですよね。それがあれば、府議会の側に対する力になるからです。実際、15日にそれぞれ独自の財政再建案を出した、府議会の自民・民主・公明の3会派の中では、すでに民主と公明が児童文学館の廃止案に反対を表明しています。今後さらに存続を求める声が高まれば、自民も動く可能性が高いと思われます。
 

 橋下徹知事直轄の改革プロジェクトチーム(PT)が示した財政再建プログラム試案に対し、府議会の自民、民主、公明各府議団は15日、独自の財政再建策をそれぞれ発表した。3会派とも、PT試案の事業費削減の内容を批判したうえで、歳入確保策について「努力が足りず、不十分」などと、さらに増収策を要求、大幅な修正を求めている。


(中略)


 施設や法人の存続に関しては、民主が、府立国際児童文学館弥生文化博物館の廃止案に反対。公明は、大阪センチュリー交響楽団を運営する文化振興財団など4法人と府立体育会館など3施設の存続を主張した。

 PT試案が300億〜400億円削減する考えの職員人件費は、公明が200億円にとどめる案を提示。自民、民主は「歳入確保の努力をした上で、最後の選択とすべきだ」(西脇幹事長)などとして、明記を見送った。

 橋下知事は15日夕、3会派の案について、報道陣に「非常に建設的な意見。実現可能性をきちんと議論して、最終案を出したい」と話した。

 共産党府議団は、PT試案の白紙撤回を求める要望書を提出している。

(2008年05月16日 読売新聞)
http://osaka.yomiuri.co.jp/tokusyu/h_osaka/ho80516a.htm

 府改革プロジェクトチーム(PT)の1100億円の財政再建案について、府議会の自民、民主、公明の3会派が15日に発表した対案は、いずれも歳入を確保して削減規模の縮小を求めるものとなった。公明と民主は医療費助成や私学助成など主要事業や施設について、削減や廃止に反対する項目を列挙。橋下徹知事は「建設的な意見でありがたい。一番いい形で府案を出したい」と話した。


 自民はPT案が300億〜400億円とした歳入の確保策を最優先するよう提言。府営住宅跡地の売却や府出資団体への出資金などの活用を挙げた。歳出削減については個別施策に触れなかった。今後提言するという。浅田均幹事長は「福祉、医療、街の安全、教育は府として責務を果たさないといけない」と述べた。


 公明は「福祉、府民の安全、教育、文化は極力主張しながら守っていきたい」(光沢忍幹事長)として、高齢者や障害者などの医療費助成、子育て支援事業、少人数学級制度の維持を提言。私学助成や警察官定数の削減は認めず、市町村関係事業の見直しは09年度からにするよう求めた。大阪センチュリー交響楽団を運営する府文化振興財団、女性総合センターの事業を担う府男女共同参画推進財団、大阪国際児童文学館などの存続も求めた。


朝日新聞 2008年05月16日)
http://mytown.asahi.com/osaka/news.php?k_id=28000160805160001


 知事の様子からは、改革PTの第二次案での大きな変更はあまり期待できないものの、自分と同じく府民の代表である府議会の意見には耳を傾ける用意があるようなので、少なくとも予算審議のための臨時府議会までは、粘り強く存続要望運動を続けていかなければならないようです。しんどいけど、がんばりたいと思います。
 なお、16日に提出された文化人有志からの要望書第2弾とそれを報じるニュースはこちら。


http://www.iiclo.or.jp/announce/bunkajin_2.pdf
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp3-20080516-360534.html
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200805160007.html
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080516/plc0805161101010-n1.htm


 また、同日要望書を提出した各種団体の一覧はこちら。


http://www.iiclo.or.jp/announce/gaibu_youbou_2.pdf


 各種団体から提出されている要望書は、随時「児童文学書評」の方にアップされています。


http://www.hico.jp/


【18日追記】
 このエントリ、なぜか「最近の人気エントリ」になってしまい、普段の10倍くらいのアクセス数になっていて、ブックマークコメントもたくさんいただいております。
 コメントを拝見したうえで、改めてこのエントリを読み直したところ、ちょっと補足・訂正しないといけないと思いましたので、18日付で補足のエントリを立てましたので、そちらもお読みください。


http://d.hatena.ne.jp/hrhtm1970/20080518/1211051889