宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

ジョジョ展行ってきましたー

 火曜日の夜に、一人で行ってきました。ゼミ生も誘ったんですが、誘うのが遅すぎて、一人しか来れる学生がおらず、その一人も急に熱出してこられなくなってしまったのでした。平日の夜とか土日とか(てか要は授業のない時)は、学生さんはたいていバイトかサークルがあるので、1カ月以上前に言わないと来てくれないんすよねー。ま、それはさておき。


 第1部から順番に、各部ごとのゾーンを作って、それぞれの部の特徴を象徴するような造作物をしつらえて、作品世界に入る感じを演出しつつ、展示品自体は見栄えのするカラー原画を律義に横1列に並べていくという構成で、思ったよりオーソドックスな展示でした。
 マンガの原画はモノクロで、しかも展示空間に置くにはサイズが小さいので、少しでも見栄えのする、単行本の表紙や連載時の扉絵など、カラー原画中心に展示し、それでもまだ空間的にさみしいので、キャラクターの立体造形を置いたり、空間全体を作品の世界観に近づけるように造作物や壁の色で演出する、というのは、マンガ展の、今や最も定番のパターンになっていて、ジョジョ展も基本的にそのパターンを踏襲していました。
 誤解のないように言っておくと、絵自体の魅力で見せられる作家・作品の場合は、それで全く問題ないというか、十分満足のいく展示になります。なおかつ熱心なファンが多い作品なら、観客動員的にも成功します。
 言うまでもなくジョジョ展も、とにかく一枚一枚の絵の力がハンパないので、それが200点以上並べば、もう十分おなかいっぱい、大満足です。造作も良くできていたので、ファン的には「よかったよー!」って言える展示でした。
 が、マンガ展、マンガミュージアムのあり方について、自分も展示の企画をやったり運営に携わったりする側になっているので、つい何かしら新機軸はないのかと思ってしまうんですよね。「井上雄彦 最後のマンガ展」や「大友克洋GENGA展」にはあったような、斬新な表現が。
 その意味では、やっぱり荒木飛呂彦なら何かおおおおっと驚くような何かをやってくれるんじゃないかという期待はありましたから、そこの点だけちょっと残念だったかなと。ま、今現在連載やってる作家さんにそれを求めるのはないものねだりなのも分かるんですが。


 今回、少し新しい仕掛けとしてはiPadを使ったもので、特定の場所でそこに置かれているiPadをかざすとマンガが始まったり、キャラのアクションが見られたりっていうのがあって、それはそれで楽しかったんですが、新機軸とまで言えるかって言うと微妙かなと。


 と言いつつ、スタンドと一緒に写真が撮れるやつは一人で行ったのに普通に楽しんでる自分がいるわけですが(笑)。



 てかこの写真、アップしていいんです…よね…?ここ↓見てもアップすんなとは書いてないし、いいんですよね?


http://araki-jojo.com/gengaten/tokyo/stand/index.html
 

 本題に戻ります。
 うん、ワンピース展もそうでしたが、マンガの展覧会が六本木ヒルズで1カ月開かれて、平日も含めて会期終了前にチケットが完売するってのは、展示という形態でのマンガの見せ方が普及、発展していく上では、すごくすごく重要なことだなと思います。


 あ、ちなみにジョジョ展については、世界中の誰よりずっと荒木先生本人と親しいマンガ研究者の金田淳子さんが、力の入った展評を書かれています。


http://www.ele-king.net/columns/regulars/kanedajunko/002465/


 岸辺露伴荒木飛呂彦の机の展示の意味をめぐる解釈はさすがに面白いと思いますし、マンガ展一般の抱えている問題を分かりやすく説明しているのもさすがですが、一方で、ここで言われている「アート系」展示とか「アートとして鑑賞する態度」のイメージは、「大雑把にいって」という留保はついているにしても、やはりいささか一面的すぎるのではないかと思います。
 実に多種多様な現代美術のインスタレーション系展示を考えなくても、例えばモネの睡蓮を前にうっとりする観客は、普通に「わたし」が肉体のまま「作品」のなかに入ってしまうような夢(錯覚ともいう)」の中にいたりするのではないか。金田さんはなまじインテリなので、作品を前にした時は、まずその物質性に目を凝らし、「ピンクという色」そのものの美しさに感動したり、「「ためし塗り」の筆あと」に「作画の現場を盗み見」るような鑑賞ができてしまうのだと思いますが、それが一般的な美術展における「アートとして鑑賞する態度」と言えるかは、かなりあやしいと思います。


 ま、これも相手が金田さんだから言える枝葉末節の批判ではあるわけで、金田さんぐらい力のある人が、ほんとにたくさんいろんな美術展を見て、またマンガ展についても網羅的に見た上で、こうした展評を書いてくれれば、「最強に見える」のではなく、本当に「最強の」レビューになるのになーと思ったので、書いてみた次第でした。