宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

国際児童文学館は「官民協働」の仕組みを構築している先行事例です

 前回のエントリで締め切りが12日に延びましたとお伝えした存続要望署名ですが、そのすぐ後で、「児童文学書評」の方で、「提出日が19日以降になりましたので、締め切りが伸びました!とりあえずは17日をめどにお願いします。」とのお知らせがありました。
 本当はこちらでもすぐにそれをお伝えしたかったんですが、授業の準備等であたふたするうち、今日になってしまいました。すいません。いろいろここでやっていますが、遠く離れたところでほぼ勝手に応援しているだけなため、必ずしもいつも最新の情報を把握できておらず、提出日が19日以降になった事情もまだうかがえていません。ともあれ、まだ集められる、ということですので、前回も書きましたが、FAXでもOKですので、下記から用紙をダウンロードの上、ぜひ署名の送付をお願いしたいと思います。


http://www.hico.jp/
 

 で、上記の「児童文学書評」には、つい先日提出された社団法人日本書籍出版協会(書協)の要望書が、正式の要望書と、「要望・骨子」の二つ、掲載されています。


http://www.hico.jp/080331syosekikyoukai.htm
http://www.hico.jp/syosekikyoukaikossi.htm


 目を通してびっくりしたのは、「要望・骨子」の方に記されている、次のくだりです。

国際児童文学館は「官民協働」の仕組みを構築している先行事例です。


 同館の実質的な事業費約3億円(企業の協賛事業費等を含む)のうち、3分の1は民間等によるものであり、人的、知的な協働作業など支援・協力によって運営されています


 今までこのブログでも、同館の年間の事業費については、館のホームページ掲載の収支決算書のデータをもとに、約2億円ということで、考えてきたのですが、どうやらここに計上されていない、民間等からの協力による部分が1億円近くもあるということが、上の書協の「要望・骨子」からは読み取れるわけです。
 で、あわてて、大阪府のホームページの改革PT関連のページを見ると、連休前後の改革PTと関連部局の公開討論の概要、および関連部局が出した資料が掲載されています。


http://www.pref.osaka.jp/zaisei/kaikaku-pt/shian/index.html


 児童文学館については、教育委員会との議論の中で取り上げられています。「資料1」(ワードのファイル)と「資料2」(パワーポイントのファイル)が教育委員会から提示・説明された上で、改革PTとの議論が行われ、その概要が「概要」としてまとめられています。


資料1
http://www.pref.osaka.jp/zaisei/kaikaku-pt/shian/giron/kyouiku/kyouiku1.doc
資料2
http://www.pref.osaka.jp/zaisei/kaikaku-pt/shian/giron/kyouiku/kyouiku2.ppt
概要
http://www.pref.osaka.jp/zaisei/kaikaku-pt/shian/giron/kyouiku/gaiyou_kyouiku.htm


 特に重要なのが、「資料2」の28ページ掲載の「2国際児童文学館」です。民間からの協力の現状と、館が府立図書館に「統合」された場合どうなると考えられるかについて、次のようにまとめられています。


・出版社からの文化的資産としての本の寄贈(年間約2千万円相当)がなくなり、府民にとって大きな損失。収集資料の約6割が寄贈。
・財団の運営の中で多額の外部資金(H19年度実績約7千万円)を導入し実施している事業がストップ。
<例>子どもゆめ基金補助金)を活用した教材開発(「おはなし会データベース」)、
   企業の共同研究費用を活用したソフト開発(「ほんナビきっず」)、企業協賛金による童話と絵本のグランプリの実施 など


 書協の言う3億円のうちの約3分の1、は、「出版社からの寄贈(年間約2千万円相当)」(以前のエントリで僕がごく控えめに試算した600万円余りという額は、やはり本当に少なすぎたわけです)と、「財団の運営の中で多額の外部資金(H19年度実績約7千万円)を導入し実施している事業」を足した額に相当するわけですね。


 これ、めちゃくちゃ重要な事実じゃないですか。


 このブログでも再三触れてきましたが、この問題が浮上してから、児童文学館や、存続を要望する意見の持ち主が、どれだけ「反対するなら金を出せ」とか「民間からの協力を引き出す努力や工夫を示さなければ話にならない」という類の批判にさらされてきているかを考えれば、児童文学館側も、このことをもっと早くからはっきりアピールしてくるべきだったと思います。
 しかし、改革PT側も、自分たち自身が設立した施設について、こんな特筆すべき実績があることに、自分たちの試案に付した資料の中で一切触れていないのは、もっと大問題でしょう。もし知らなかったのだとしたら、いかにいい加減な現状分析をしているかということですし、知っていて言い落としていたのだとしたら、もっと悪質です。
 まず削減ありき、というより、ほとんど「削減のみありき」で、性急に案を立てるから、こういうことになるのはほぼ明らかです。毎年、3億のうち1億を民間から引き出せている施設となれば、むしろそのことを積極的に広報し、大阪府の売りの一つとして、さらに伸ばしていく方が、よっぽど「経営戦略」上、「イメージ戦略」上、有効でしょう。民間企業なら当然そう判断するのではないでしょうか。
 「とにかく削減」のみを知事からの至上命令と捉えて、何が何でも児童文学館の統廃合を行なうために、情報操作まがいのことを改革PTが行なっているのではないかという疑いを持たざるを得ません。そのことは、議論をまとめた「概要」の方で、この民間から引き出せている9000万円相当の協力が府立図書館への統合によって失われてしまう危険に一切触れていないこと、自分たちの試案の「資料」に「必要資料、機能の精査を行い、蔵書の整理での対応を検討する必要」と明記しておきながら、この議論の場では「国際児童文学館を中央図書館に移転させれば資料が喪失されるとか弥生文化博物館を統合させると教育財産が失われるという言い方は、あまり冷静な言い方ではないと思う。」などと言っていることからもうかがえます。
 以下、「概要」の中から、児童文学館に触れているくだりをすべて引用します。

【改革PT】

 今回の公の施設の見直しについては、集約や多機能化、また代替施設のないものについては存続させるということであり、機能を無視して考えたものではない。このうち体育会館については、門真スポーツセンターが全国的であり、国際的なスポーツができる施設であることから、もっと同センターを活用していただくことができないかという思いである。また第2競技場程度の規模であれば、府内のほとんどの市町村でもそういう体育館を有しており、利用の確保は可能ではないかと考える。

 臨海スポーツセンターについては、59年に教育委員会に移管された時には、広く府民のためということで、設置当初のような地元市民のためというものではない。

 国際児童文学館については、中央図書館という便利が良く、65万人という利用者がおられるところに移転して、広く府民に利用していただくということが必要ではないかと考える。また、中央図書館の中に国際児童文学館という看板をかけるという方法も考えられる。

 博物館については、時代ごとの専門博物館ということかと思うが、学術研究をするのであれば時代ごとでよいのかもしれないが、子どもたちに歴史を教えるということでは、弥生文化を近つ飛鳥博物館に持って行って、弥生、古墳、飛鳥時代という歴史の流れを子どもたちに見ていただくことがなぜいけないのかということについてはよく分からない。また現地性と言うのであれば、遺跡や古墳のあるところにはすべて博物館がいるということになる。

教育委員会

 体育会館については、なぜ今売却しなければならないのかという思いが強い。

 国際児童文学館については、もっと広く利用していただくという点は理解できる。もともと万博公園の中で民族博物館と連携するとか、自然の中で読書をするという意味もあった。今後議論していきたい。

 博物館については、府が総合歴史博物館という構成をとっていれば、お示しの提案もあったと思うが、それぞれの時代背景をもとにフィールドをベースとして展示を考えて、時代を混在させるのではなく、時代ごとに子どもたちに歴史を分かってもらうためには、今のような形がいるのではないかと思う。小学校6年生の社会科の教科書にも弥生時代をとらえて、弥生文化博物館が紹介されている。改めて議論したい。

【改革PT】

 国際児童文学館を中央図書館に移転させれば資料が喪失されるとか弥生文化博物館を統合させると教育財産が失われるという言い方は、あまり冷静な言い方ではないと思う。


 財団を廃止して、「機能」だけ移転するなどあり得ない、という、さまざまな団体からの要望書の中でも言われており、教育委員会の資料にも挙げられている論点を、完全に無視して、「中央図書館の中に国際児童文学館という看板をかけるという方法も考えられる」などと言い、あたかも問題は「資料」が保存されるか否かにのみあるかのような議論の進め方・まとめ方をしているのを見ると、いったん「口減らし」の対象にしてしまったら、あとはその施設・組織にどんな実績や潜在的可能性があるかなど一切検討するつもりはないのだと思わざるを得ません。
 府立の施設は、すべて、自分たち府民、自分たち府の職員が、苦労して産んで育てた可愛い子供だという意識が、府の側に、改革PTの側に、少しでもあれば、まず「口減らし」ありきではなく、どうにかしてこの子たちを生き延びさせてやりたい、そのために、この子たちにどんな仕事能力や、他人から助けてもらえる魅力があるかを、必死で見直して、伸びうるところを最大限伸ばして自立できるようにする、というのが親=設立責任者の考えるべき「改革」ではないでしょうか。
 橋下知事には、ぜひ、冷静に、大局的に見れば、児童文学館を活かし伸ばすことこそが、大阪府にとって、最大のメリットを生むことにつながりうるのだという認識を持っていただきたいと思います。