宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

昨日の「メディア文化概論」の最終回は特別講義

 川崎市市民ミュージアム学芸員の金澤韻さんにおいでいただき、「メディアとしての展覧会」というテーマでお話ししていただきました。
 金澤さんは、熊本市現代美術館から2006年に川崎に移籍され、マンガや現代美術の展覧会を担当されています。
 ちょうど、先週末オープンした「サンデー・マガジンのDNA」展も金澤さんが担当されたということで、昨日は、この展覧会を素材に、展覧会のできるまでの過程を具体的に、たくさんの写真を見せながらお話して下さいました。
 初めに、展覧会もまた、小説や映画やマンガと同様に、人が作っている「創作物」であり「メディア」であるというお話があり、同じ展示物であっても、その並べ方一つで「見え方」が変わってしまうことを、長いキャリアを持つ作家の展覧会の企画を例に、考えさせてくれました。
 この授業では、同じ事件を、同じ日、ほぼ同じ時間帯の「報道ステーション」と「NEWS23」と「ニュースJPAN」とで、それぞれどう伝えているか、その違いによってどう見え方が変わるか、というようなこともやっていたので、受講者のみなさんには、すぐにピンと来てもらえたようです。
 そして展示の際の並べ方、見せ方に、どのような技術的な要素があるかについても具体的に挙げていった上で、「DNA」展の舞台裏を企画の立ち上がりから展覧会のオープンに至るまで詳しく紹介してくれたので、すごく分かりやすく興味深いお話になっていました。
 「DNA」展自体の内容も、学生たちにとって興味を引かれるものですし、それをどういうコンセプトのもと、どう見せていくか、という創意工夫が、例えば、額装の際、原画の余白の部分をどの程度見えるようにするか、作業の現場で業者さんにミリ単位で伝えていく様子など、具体的に紹介してもらえたので、学芸員という仕事の実際がよく伝わったと思います。
 ウチは文学部の比較文化学科ですけども、展覧会ってよく見に行く学生と全然行かない学生がはっきり分かれていて、残念ながら後者の方が多いんですよね。
 小中高の見学で見に行く美術館博物館の展示って、行くモチベーションが低いこともありますし、お勉強目的のことも多いので、展示されている個々の資料に目を引かれることはあっても、そもそもどう並べてるか、どういう空間構成にしてるか、なんて意識しないことも多いし、極端な話、この空間も、人が作ってるんだということすらほとんど意識しないと思うんですよね。
 ですが、いい展示って、まさに、展示の仕方の工夫ひとつで、今まで見えなかったことがはっきり見えてくる、今まで知らなかった世界に具体的に触れられる経験を与えてくれるわけで、そういうメディアとしての機能の持つ魅力と、その反面、意識的に見ないと危ない側面とを、すごく実感させてくれる講義だったと思います。


 メディア文化概論という授業は、3年前から始まった新カリキュラムの中で、それまでの「比較メディア文化」という選択科目を、概論科目という、より重要性の高い位置付けに変えて始めたもので、僕自身、一から全部新ネタで、すごく力を入れて作った授業だったので、3年間、毎年少しずつ微調整しながら、かなりいい感じにできたな、という思い入れのある授業でした。
 来年度から明治に移ると、僕より優れた専門家の方がたくさんおられる分、こういうメディア文化全般を包括的に扱う授業は、自分では持つ必要がなくなってしまうので、これでこの授業は、ほんとに最終回になるんですよね。せっかくここまで仕上げたのになー、という一抹のさみしさはあったりもするんですが、毎年、いろんなゲストの方に特別講義に来ていただいて、どなたもみなさん、この授業のコンセプトをばっちり理解して、すごくいい授業を、ちゃんとウチの学生に届く形でやっていただけて、ほんとによかったなと思います。
 この最終回も、前から何かの機会にお呼びしたいと思っていた金澤さんに来ていただけて、かつての同僚で先日来の井上雄彦展を担当されてた冨澤治子さんや蔵座江美さんにも聴講に来ていただいたりもして、すごくいい形で終われたなあ、と、ちょっと感慨深いものがありました。
 講義が始まる前、僕の研究室で展開された金澤・冨澤・蔵座、プラス僕による、「女性」と「メディア」についての(笑)、アルコールも入ってないのにそこまでぶっちゃけますか的なディープなトークも、とっても楽しかったです。
 そんなわけで、金澤さん、展覧会オープン直後でお疲れのところ、素敵な講義をしていただき、ほんとにありがとうございました!


 あ、「サンデー・マガジンのDNA」展は、展示準備の過程を紹介するブログも設けられていて、これは主に、この展覧会の広報担当のヤマダトモコさんが文章を書かれていて、展示ができていくわくわく感がよく伝わるものになっています。僕のアンテナにも入れてますが、まだご覧になっていない方はぜひどうぞ。


http://www.kawasaki-museum.jp/sunmaga/blog/


 それから、もうすぐ出る『マンガとミュージアムが出会うとき』は、金澤さんも共著者のお一人として寄稿されているので、ご興味おありの方はぜひ。


http://www.rinsen.com/books/visual.htm