宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

市長報告&記者発表

 今日の午後、(仮称)北九州市漫画ミュージアム基本コンセプト検討委員会の最終回が開かれました。報告書が取りまとめられ、松本零士委員長から北橋市長に手渡され、その後記者発表が行われました。
 夕方のNHKの北九州ローカルニュースでも流れてましたが、テレビ・新聞等で明日にかけて報道があると思います。また、最終的な報告書は、市役所のホームページのここ↓に後日載ると思います。

http://www.city.kitakyushu.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=19139

 検討委員会そのものは3回でしたが、委員会と委員会の間ごとに、市の担当者のみなさんが精力的に検討委員へのヒアリングを重ねて、たたき台を作ってくれたおかげで、委員会での議論だけではとても実現できないレベルの、密度の高い、よく練られた報告書ができたと思います。
 東京や大阪ではなく、地方の政令指定都市が総合的な漫画ミュージアムを作る。ということで、いったいどのような特色を出せるのか、また出すべきなのか、を考えて出した結論は、いまどきありきたりと言えばありきたりではあるのですが、やはり、市民参加型の、柔軟に成長していく、開かれたミュージアム、というものでした。
 その基本コンセプトの実現のために、「見る」、「読む」、「描く」という三つのテーマを立て、それぞれに即して展示、閲覧、創造・交流・育成、の三つの機能を果たしていく、という方針を立てました。
 ミュージアムというと、まず展示というのが思い浮かびますが、それだけではないわけです。京都の国際マンガミュージアムがそうであるように、漫画本・漫画雑誌を手にとって「読む」ことのできる閲覧スペースをしっかりとる、というのが一つの柱になり、またそれだけでなく、漫画教室や各種講座、ワークショップの類によって「描く」というにとどまらない、広い創造・育成・交流機能をも果たしていく。この三本柱が互いに連携しながら動いていく、というのがこのミュージアムのイメージです。
 今のところ、全国各地にあるマンガ関連ミュージアムは、大半が個人記念館です。観光施設としての性格も強く、その漫画家の作品・キャラクターのイメージに頼った運営を行っているところが多いのですが、自力で新しい企画展を立ち上げたり、そこから新しい漫画の楽しみ方を提示していく、といったところにまで踏み込むのは難しい状況のようです。
 一方、京都の国際マンガミュージアムは、京都精華大学のバックアップもあり、資料の収集・保存・研究というアーカイブ機能において恵まれた状況にあり、また閲覧、創造・育成・交流機能もかなり充実しています。北九州も、どちらかといえば京都のあり方に近いのですが、京都ほどめぐまれた人的バックアップはありませんし、西鉄のショッピングモール内に作られるということもあり、特に資料の収集・保存という点で、限界があります。
 そこで、上の三つの機能を通じて、このミュージアムが目指すのは、漫画の高みをさらに高めることより、漫画のすそ野の広さをさらに広げる、マンガの奥の深さに触れてもらう入り口を提供する、ということになります。
 たとえば閲覧コーナーには、とりあえず「漫画ソムリエ」と呼んでいるガイド役を置き、選書や利用者とのコミュニケーションを通じて、読者と漫画との新たな出会いを積極的に演出していきたいと思っています。ワークショップの類も、いわゆる漫画教室に限らず、市内の各種ミュージアムと連動した企画を立てたり、地元商店街の協力を得た企画なども考えていきたいと思っています。
 新しい漫画体験、漫画を介した、人と漫画、人と人との、新たな出会いを生んでいく場。漫画の可能性の広さを信じるスタッフにさえ恵まれれば、そんなに巨大な予算はなくとも、このミュージアムは非常にユニークな、はやりの言葉でいえば「オンリーワン」なものになっていくことができると思っています。
 公共施設といえども、とにかくたくさんの人に来てもらうことが求められる今日の流れの中で、決して安易にお客さんを呼べそうなコンテンツとして漫画が選ばれているわけではありません。実際、漫画という基本的にパーソナルなメディアと、公共施設、ミュージアムという空間の相性は必ずしも良くありません。だからこそ、積極的に、新しい漫画体験、新しい、漫画を介したコミュニケーションのあり方を模索していく施設を目指したいわけです。そのためには、当然、中途半端にアミューズメント施設化する方向をとるのは逆効果だと考えます。
 そこで、三つの柱を総合的にリンクさせながら動かしていくプロデューサーのポジション、それからしっかりミュージアムとしての業務を成り立たせる学芸員のポジション、さらに閲覧機能を充実させる漫画ソムリエのポジションを、それぞれ運営体制の中に確保してあります。この三つのポジションのスタッフが連携していく体制さえ保証されれば、仮にこのミュージアムが公設民営型になった場合(こうした事業手法の決定はこれからになります)でも、ポリシーと責任があり、しかも柔軟で多面的な運営ができるのではないかと考えています。
 流されるのではなく、自ら積極的に動いていく。開かれていることが、求心力になる。そういうミュージアムになることを、(仮称)北九州市漫画ミュージアムは目指しています。どうかみなさん、注目してほしいと思います。そしてまた、知恵を提供してほしいと思います。よろしくお願いします。