宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

今週の「比較映像(日本)」は

 最終回ということで、新海誠の「ほしのこえ」を、「彼女と彼女の猫」と合わせて、全編お見せしました。
 日常的な風景のショットに登場人物のモノローグが重ねられ、空を見上げる動作を繰り返すカメラの動きに、見る側が次第に、風景を眺め空を眺める情緒的で感傷的な登場人物たちと同じような存在として、その世界の中に入り込まされていく仕掛けのことや、アニメーションでありながら、絵とその動きより声として聞こえる言葉の方が重要な役割を果たしている表現のありようは、まさに「アニメ」的な表現スタイルの究極でもあることや、「世界」の「物語」より「私」の「感情」の方こそが主題になっていることなど、多くの点で「エヴァンゲリオン」に似ているにもかかわらず、「エヴァ」においては、アニメやマンガやSFが好きで好きでしょうがない人たちの痛切な自己批判の文脈の中で扱われていたアニメのアニメ的な要素が、ことごとく、村上春樹みたいなことを小説でない媒体でやるための、道具や素材として使われているあたりに、GAINAXと新海の決定的な違いがあるんでしょうね、みたいなお話をしました。
 好き嫌いのはっきり分かれる作品だと思うので、特におたく人口が多いわけでも、もちろん美大でもない、ごく普通の地方公立大学文学部のみなさんにとっては、どう捉えられるのかな、てかこれキモくね?、みたいな反応とかもあるかもな、と思っていたのですが、思った以上に、ハマった人が多かった模様です。授業が終わったあと階段教室をぞろぞろ降りてくる学生さんたちの間から、「ちょっと今日これまじ感動したんだけど」って声が聞こえたりしたのは今回が初めてでしたし、授業用掲示板にも「「ほしのこえ」まじやばい!!」っていう普段ないタイプの書き込みがあったりしたので、最後にこういう反応があってよかったなと思いました。「私アニメを見て泣きそうになったのは、ドラえもんのび太のおばあちゃんの話以来です」って、作り手にとっては最高の賛辞じゃないでしょうか。僕もいつかそんなことを言われてみたいもんですが、大学の教師とマンガの評論・研究じゃあ一生無理かも。

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