宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

「少女マンガパワー!」展、見てきました!

 いやほんと素晴らしい展示でした。学芸員ヤマダトモコさんと金澤韻さんが、血の汗流し涙をふかず、奮闘なさってきた成果が、この展示の副題の通り、「つよく・やさしく・うつくしく」実現されていたと思います。
 許可をいただいて会場の様子を撮影させてもらいましたので、ご紹介したいと思います。紹介中作家さんのお名前は敬称略にさせていただきます。



 

 会場入り口です。水野英子の「ハニーハニーのすてきな冒険」を使ったこのポスター、いろんなところで目にされていると思います。



 「北米9カ所を巡回し、日本の少女マンガの真の魅力を伝えた「Shojo Manga! Girl Power!」展をベースに、100余点に及ぶ原画・原画'(ダッシュ)(※)のほか、特別出展原画、作家の愛用品やグッズ、出版資料などを加え、日本での開催用にリニューアル」(川崎市市民ミュージアムホームページより)したこの展示、構成はいたって単純明快です。
 「日本の少女マンガ形成に多大な影響を与えたマンガ家23人」の作品が、デビュー年順に大きく3つの時期に分けて並んでいます。



 作品は、原画、原画の複製、竹宮惠子自ら開発に携わった高精細複製の「原画ダッシュ」のいずれかの形で展示され、それぞれ、ピンクが原画、黄色が原画ダッシュ、といった具合に、展示キャプションに添えられた色で区別できるようになっています。



 雑誌や単行本等の資料だけでなく、各作家ゆかりの品も展示されています。これは石ノ森章太郎のトレードマークの眼鏡とペンですね。竹宮惠子が初めてヨーロッパに行った時に持っていったカメラとか、ファンにとってはぐっと来るものが多いですよ。
 


 夏目さんのブログでも取り上げられてた水野英子の執筆過程映像。約30分にまとめられたものが2本製作されていて、二つのモニターで見ることができます。
 なおこの映像、川崎市市民ミュージアムの「活動ブログ」でも一部を見ることができます。
http://www.kawasaki-museum.jp/magazine/blog/report/2008/02/post-14.html



 牧美也子のプロフィール写真を、牧作品の少女をモデルにして作られた初代リカちゃん人形にするあたり、気が利いています。各作家・作品のプロフィール紹介も、質量ともにしっかりしています。



 『りぼん』の読者プレゼント企画で、牧作品に登場するドレスを実際に1着作ってプレゼント、というのがあったそうで、そのドレスをさらに再現したものが展示されていたり。もちろんその企画の記事が載っている『りぼん』も展示されています。



 会場は細かく仕切らず、空間を広く使って、外縁の壁に沿って、ひたすらマンガと同じように右から左へ進んでいくとぐるっと一周できるようになっていて、導線が明解です。右から左への導線を一貫させるって、なにげにマンガ展でちゃんと徹底されてなかったりすることなんですよね。
 で、中央に、展示作家の作品や解説本、画集の類を座ってゆっくり読めるようにしてあって、気持ちのいい空間になっていると思います。



 結構レアな資料もあって、これは里中満智子の、チラシの裏に書かれたネームなど。



 作家・作品の解説だけでなく、「少女マンガの内面描写」など、展示作品を例にしたトピック解説もあって、さらっと見て絵だけ楽しんでよし、詳しく深く知りたい人はじっくり解説を読み込んでよし、な展示になっています。



 ぎゃー、よしながふみが自分で出してる「西洋骨董洋菓子店」のスピン・アウト同人誌の原画がこんなにたくさん!




 取り上げられてる作品の名ゼリフと一場面が順に映っていくスライドもあり。



 最後に、「印刷される芸術としてのマンガ」というコーナーが設けられていて、原画と雑誌、単行本を比べて、製版・印刷の工程でマンガがどのように変容するかがわかりやすく紹介されています。「原画ダッシュ」と原画の比較もあって、原画とはマンガにとって何なのか、という問題意識がしっかり反映されていると思います。



 一般的なアンケートだけでなく、展示作家さんへのファンレターを書いて出せるようになっています。これ、すごくたくさんの人が熱心に書いてるみたいです。そりゃそうですよね。いい企画だと思います。


 というわけで、大変充実した展示で、今まで見たマンガ展の中で最高水準、かつ、今後のマンガ展が最低限クリアすべき条件みたいなものを示した展示かな、と思いました。
 展覧会というのは、実際に数カ月、長い場合は数年にわたって、原画や貴重な資料を、実際にある場所に移動して人目にさらし続けるわけですから、研究・評論的にマストな作家・作品であっても諸般の事情で展示できない、ということは多々あります。今回の展示でもなんであの人が?みたいなことはあるわけですが、出版社の垣根を超えるだけでも大変なマンガ展において、ここまで包括的にできてるのはすごいと思います。こういう形で、マンガ展というのは、受け手と作り手双方にとって幸福な場でありうるのだということが示されていけば、少しずつ、マンガ展全体のレベルも上がっていき、作家さん、出版社の意識も変わっていくと思うわけです。
 ぜひみなさん、見に行ってください。観客動員数がシビアに評価される昨今の美術館・博物館事情もありますので、ぜひ足を運んで応援していただければと思います。


 昨日は、まずヤマダさん、金澤さん、とウチのゼミ生も交えてつよいランチやうつくしいランチをご一緒させてもらった後、展示をゆっくり見ていたら、たまたま水野英子先生がゆっくり展示を見てなかったからということでご来場され、ありがたいことにヤマダトモコさん、ウチのゼミ生と一緒に、お茶させていただく(水野先生はつよいスゥィーツ、ヤマダさんはうつくしいスゥィーツ、僕はやさしいスゥィーツをいただきました)という幸運にも恵まれ、ほんとに幸せな一日でした。みなさん、本当にありがとうございました!


【追記】
 この展覧会についてのネット上での感想・批評を毎日まとめている「少女マンガパワー!」展勝手に応援ブログにもリンクしておきます。いろんな反応が読めますよ。
http://shojomangapowerfan.blogspot.com/