宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

函館市中央図書館の貴重資料について

hrhtm19702010-11-28

 今日の僕の講演は、函館市中央図書館所蔵の貴重な戦前の子供向け物語漫画の単行本についてのものなのですが、なぜ、そんなものがこの図書館にあるのか、簡単にご説明しておきます。


 今回展示が行われている、開館5周年を迎えた函館市中央図書館ですが、新たな建物とともに「中央図書館」として開館したのが5年前、ということで、そこに至るまでに非常に長い歴史があります。詳しくはこちらの図書館サイトの沿革をご覧ください。


http://www.lib-hkd.jp/shisetsu/enkaku.html


 上のページの年表にはありませんが、1934(昭和9)年、函館では函館大火と呼ばれる多火事があり、この際、函館市に、全国から「被災児童同情図書・雑誌」が寄せられます。それらの大半は市内の小学校や罹災児童に配布されましたが、その一部が函館図書館の蔵書となり、戦後ずっと、一般の資料とは別に、図書館の屋根裏で保存され続けていたのです。うーん、ドラマチック。


 戦後、一般の閲覧に供されなかったため、保存状態が良好なものが多いこと、昭和9年前後の児童書、児童雑誌が集中的に大量に存在すること、全国から寄せられた寄贈書であるため、同じタイトルの複本も多く、そこからどのような本が人気があったのかある程度読み取れること、当時の「全国」であるため、台湾や満洲からの寄贈品も少なからずあり、台湾で発行されていた児童雑誌など、極めて貴重な資料が含まれていること、等々、量的にも質的にもきわめて重要性・稀少性の高いコレクションとなっています。
 また、今回書庫を見学させていただいて解説していただいたのですが、雑誌については、「被災児童同情図書・雑誌」以外の、開館当初からのものもかなり系統的に残っています。


 市立中央図書館としての新築・移転に向けて旧函館図書館の、いわゆる「屋根裏文庫」の整理が行われる際に、谷暎子さんを中心とする日本児童文学学会北海道支部のみなさんが、その資料の貴重性に鑑みて、資料のきちんとした整理、データベース化のために尽力され、現在その多くが、図書館OPACからも検索できる状態になっています(*閲覧のためには事前の申し込みが必要)。


 で、漫画本についても、「被災児童同情図書・雑誌」として寄せられたと思われるものが、複本も含めて90冊、タイトル数で言うと60点、含まれています。
 そのほとんどが、ハードカバー160ページ前後のもので、田河水泡の『のらくろ上等兵』の10万部を超えるヒットに刺激されて続々と出た、のらくろのシリーズと類似した造本の赤本漫画です。
 昭和10年を過ぎると、赤本漫画は64ページ以内の、ソフトカバーというかペーパーバックというか、本文と表紙の紙が同じの、薄いものが量的には主流になっていきます。
 この昭和10年以降のものは、古本屋さんにもちょいちょい出ますし、公立の図書館・文学館等にもそれなりに所蔵があるのですが、昭和9年ごろまでのハードカバーものは、古本屋さんにもあまり出ず、公立の施設にも所蔵が少ないので、この昭和9年前後までのハードカバーものが60点、90冊もあるというのは、僕のような研究者にとっては随喜の涙が止まりません、というレベルです。
 今回の展示は、これらの赤本漫画を中心に、屋根裏文庫所蔵資料から、初期児童漫画の概要を示すものになっています。展示構成に僕はタッチしていないのですが、谷さんたちとは以前から研究上のお付き合いがあるご縁から、今回の講演ということになったわけです。


 お話の内容としては、この屋根裏文庫の漫画本の位置付け、価値等についてお話した上で、一人の知られざる人気作家に焦点を絞って、初期の子供向け物語漫画の一断面に迫ってみたいと思います。