宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

「(仮称)北九州市漫画ミュージアムサポーターミーティング」レポート

 ちょっと遅くなりましたが、8月23日(月)の13時30分から15時30分まで、北九州市役所本庁舎特A会議室で開かれた「(仮称)北九州市漫画ミュージアムサポーターミーティング」のご報告をしたいと思います。
 例によって例のごとく、長いです。が、一つの公立の施設ができて行く過程を、一人の研究者の視点から、こうやって継続的にウェブ上でレポートし続けて行った例は、今まであまりないんじゃないかなと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。
 なお、今までの当ブログでの関連エントリは、上の「北九州市漫画ミュージアム(仮称)関連」というタブをクリックしていただくとずらっと出てきますので、お時間のあるときにどうぞ。


 というわけで、まずは出席者のみなさんを。

(仮称)北九州市漫画ミュージアムサポーターミーティング出席者一覧(五十音順)[敬称略]

1.伊藤 明生
  あず漫画研究会(同人誌事務局)
2.井上 秀作
  市議会議員(自由民主党
3.上野 照弘
  市議会議員(自由民主党) *欠席
4.梅本 克
  国際東アジア研究センター上席研究員
5.大城房美
  筑紫女学園大学准教授
6.大久保 無我
  市議会議員(ハートフル北九州)
7.大野 光司
  アクシスプロデューサー(イベントプロデューサー、漫画・フィギュアコレクター)
8.奥永 浩二
  市議会議員(ハートフル北九州)  
9.奥村 直樹
  市議会議員(ハートフル北九州)  
10.川越 信一郎
  アジア・ユース・カルチャー・センター(福岡県外郭団体)次長
11.木村年伸
  市議会議員(自民市民クラブ)
12〜16.k.m.p.(北九州漫画ミュージアムプロジェクト)学生 5名
  小田千晶・岡田知世・島英美佳・棟形理江・山口彩花
17.しいたけ
  あず漫画研究会 (同人誌作家)
18.田中 時彦 
  あず漫画研究会(漫画家・童画家)
19.戸町 武弘
  市議会議員(自民市民クラブ)  
20.宮本 大人
  明治大学准教授(漫画研究者)
21.吉田 潔
  北九州市小倉地区中心市街地活性化協議会 タウンマネージャー


「ハートフル北九州」は市議会の民主党系の会派です。自民の上野議員が欠席されていたので、結果的に民主系の議員さんと自民系の議員さんが3人ずつご出席でした。


 まずは市の文化振興課の方から現状の簡単な報告、そして先日のプロポーザルで選ばれた丹青社さんから、採用になった技術提案書の説明が行なわれました。
 その上で、参加者全員が簡単な自己紹介とミュージアムに望むことを一言ずつ話した上で、技術提案書に対する質問や市への質問・要望・意見などをフリーに出す、という流れでした。
 以下、私の手元のメモをもとに、出された意見を列挙します。活発に意見が出されたので発言者を必ずしも正確に記録できていないので、とりあえずメモできた意見を並べる形になりますので、公式の議事録ではなく、一参加者のメモとご理解の上、お読みください。

 
・展覧会だけでなく、同人誌即売会系のイベントも開いてほしい。
・今回のような、ユーザー視点の意見・希望を募り・吸い上げる機会を積極的に続けて設けてほしい。
・アジアとの連携を。
・提案書の内容は盛りだくさんだが、かえって不安になった。→企画の具体化に必要な人員・予算をもっと明確にすべき。
・卒論でマンガ研究に取り組むような学生にも勧められる施設に。
・デジタル媒体の漫画も視野に入れてほしい。
・提案は市に配慮しすぎなのでは?誰にでもウケようとする施設は結局誰にもウケない施設になりがち。→もっと焦点を絞り込んで、いい意味で偏らせていいのでは?
・小さな企画の積み重ねを大事に。
・インターネットを使ったネットワークづくりを工夫してほしい。
・公立だからと変に上品にならないように。
・収蔵資料の選択基準を明確に。
東京カルチャーカルチャーロフトプラスワンでやっているようなサブカル系イベントのためのハコとしても提供しては?
・韓国、台湾など、アジアの若者を呼び込める施設になるはずなので、ルートの開拓を。
・漫画本来の面白さ、気楽さを失わないように。
・開館当初の3年間が重要。→予算3000万円程度の大きな企画展と300万円程度のイベント・展示をそれぞれ2本ずつはやる必要があるのでは?
・漫画を全身で楽しめるミュージアムに。
・漫画の面白さ、良さを自分の子の世代にも伝えて行ける施設に。
・型破りなミュージアムに。
・海外に向けた広報の重要性。→インターネットではフェイスブックが威力発揮。
・北九州には多くの大学生がいるものの、学生が集まり交流できる場所は意外と少ない。そうした場の一つに。
小倉駅北口全体の活性化は北九州市にとっての重要課題。その中心になれる施設に。
・出版社などの企業のプロモーション企画も積極的に受け入れていくべき。
・全国の類似機関との連携を。
・スタッフは全員コスプレしてほしい。
・読むスペースは縮小してもいいのでは?
・アニメも取り入れるべきでは?
・アニソンライブなどの企画もあっていいのでは?


 私は3年前の基本コンセプト検討委員会以来、様々な立場の方の意見を取り入れるための場に参加させてもらっていますが、市会議員さんたちの意見を直接お聞きできたのは今回が初めてでした。
 自民、民主問わず、議員さんたちは全国の類似施設をかなり視察に行かれているようで、そのご意見、ご提案は、さすがにどれもかなり突っ込んだ、具体的なものでした。というか、ぶっちゃけ、思い切ってターゲットをオタク層に絞り込んで漫画だけにこだわらず総合オタク文化施設にしちゃいなよ!という考えの議員さんが多いのかなという印象でした。
 たしかに、予定地が基本コンセプト作成時に想定していたファミリー向けのショッピングモールであるチャチャタウンから、旧ラフォーレ原宿小倉ビルをミニ秋葉原化してその上に乗っかる形に変わった以上、その方針は、手堅く一定数以上の動員を実現するための選択肢として有力だと思います。
 また、もともとの基本コンセプトをきちんと読み返していただいても、今回のご意見、ご提案のほとんどは、実は実現可能なように、幅を持たせてあります。


・アジアとの連携は、もともと強く意識されているし、全国の類似施設との連携も、当然考えられていること。


・漫画を一つの媒体にしてメディアミックス展開されている作品については、関連のアニメ、ゲーム、フィギュア等の資料も展示・収集の対象になりうること。
・そもそも「漫画映画」、「テレビまんが」といった言い方があったように、「漫画」という概念の幅自体が時代によって変化していることを踏まえて、アニメ関連の資料の展示・収集は、積極的・優先的にというわけにはいかないとしても、排除してはいないこと。


・「見る、読む、描く」の三本柱のうち、「描く」は参加型イベントの総称として使っているので、狭義のまんが教室のようなイベントしか想定していないわけではなく、漫画家のトークイベントやアニソンライブ、同人誌即売会(おそらくコミティアのようなオリジナル作品限定にはなるかと思いますが)、コスプレイベント、商店街や市内の文化施設と連携したスタンプラリー等のイベントなども、視野に入っていること。京都国際マンガミュージアムで実現できているイベントは、すべて適切な配慮さえあれば公立の施設でもできるはずだということ。


米沢嘉博さんもメンバーだったあず漫画研究会が今でも活動を続けていることや、松本零士先生の九州漫画研究会なども視野に入れて、漫画同人誌文化にはきっちり目配りすることは基本コンセプトにもはっきり示されていること。


 基本コンセプトの答申の後、チャチャタウンの増床計画が延び延びになるうちに、おそらく議員さんたちの間で基本コンセプトの内容などほとんど忘却の彼方となったのではないかと思いますが、今回ご提案いただいた企画のほとんどは、それを実施するための予算と人員さえ確保されれば(←ここが議員さんのお力添えが必要なところですが)可能なように、空間設計がなされるはずです。


 基本コンセプト検討委員会では、むしろ、「オタクが集まる施設」、「性と暴力を含んだ表現に触れられる施設」になることへの強い警戒感を示す意見を「お母さん方みんなの心配」として強く表明される委員さんがおられたため、畑中純先生やアズ漫画研究会の伊藤明生さんや私などが、「児童」だけを想定した教育施設じゃないんだとか、コミケがいかに見事に安全なイベントとして自主的に運営されているかとか、公立の施設である以上、どんな来館者もまずは信用してかかるのが筋なのだから、一番大事にすべきお客さんを敵視してかかることなどあり得ないとか、一生懸命説明して、そうした漠然とした警戒感とか嫌悪感をやわらげてもらえるよう配慮した報告書にした経緯があります。


 そのことを考えると、隔世の感というか、今回の議員さんたちのご意見・ご提案は大変心強いものであると同時に、あまりに調子よくポンポンと「スタッフは全員コスプレしてほしい」とかおっしゃっている気がしたので、市民の税金でこんな施設を作るとはどういうことか、公立の施設でコスプレとは何事か、みたいなクレームが来たときに、面と向かって対応するのは現場のスタッフなんだけど、ちゃんと公的な場でそうしたクレームに対する弁護をしてくれるんだろうかと不安になってしまったので、思わずそのまんまお尋ねしたところ、責任もって引き受けるとのご回答をいただきました。
 実際、オープンしてからの一般市民の方からのクレーム以前に、議員団の中でも年長の方などには、違和感や懸念を持たれている方は少なからずおられるのではないかと思いますので、ぜひその辺、きちんと論陣を張っていただけるとありがたいなと思う次第です。
 
 
 で、その上で、私としては、核となるオタク層のみなさんに信用してもらえる施設に、ということは当然押さえつつ、やはり、公立の施設である以上、そしてせっかく漫画という、ほんとに老若男女問わず楽しめる表現を素材にしている以上、オタク層「だけ」にターゲットを絞り込んでしまうのではない、開かれた施設になってほしいなというのは、あるんですよね。京都国際マンガミュージアムがちゃんとそうなっているように。
 また、これも基本コンセプト委員会のときにはかなり強いプレッシャーとしてあった、北九州という地域性との関わりを見えるように、ということも、それなりに残したいんです。それは、単に、出身作家のために一定の常設展スペースを確保する、というような形だけではありません。
 一つには、もっとこう、空間全体のイメージに、交通の要所で様々な文化が行き交う場であった北九州という町の街柄が反映されるような形です。ずいぶん前にこのブログで書いた、「漫画の港」としてのミュージアムというイメージは、そういうことを考える中で出てきたわけです。
 もう一つは、展示の中に、さらっと、北九州という町とその歴史への関心を喚起する仕掛けをちりばめて行くという形です。これは、ていねいに作品を読み込んでいくことで、できるはずです。
 今回のミーティングでは、この北九州という町との関わりを明確に、という意見は、びっくりするくらいほとんど出ませんでした。それどころか、北九州出身作家の名前に言及されることもほとんどなかったと思います。等身大ガンダムとか富士急ハイランドエヴァとか神戸の鉄人28号とかみたいな、人がどーんと呼べるでっかいモニュメントを、みたいな意見はあり、その流れで松本零士先生の作品名が上がることはありましたが。


 そんなわけで、ある意味では、基本コンセプトのコンセプトを、さらに追い抜くような意見ばかりがどんどん出るミーティングで、僕としては、単純に面白いなあという気持ちと、ちょっとハラハラするような気持ちと、両方感じた2時間でしたが、実のところ僕の野望はもう少し大きくて、上に述べたように、やっぱりせっかく漫画のミュージアムで公立のミュージアムなのだから、コミケに集まる55万人も、「井上雄彦 最後のマンガ展」に集まった38万人も、『ONE PIECE』を買ってる300万人も、わしら「のらくろ」しか知らんよという世代の人も、みーんな来てもらえる施設であってほしいなあ、究極的にはそこを目指すべきじゃないかなあと思っているのです。たとえ、お金はない、立派なコレクションもない、自前のハコもない、という厳しい前提から出発せざるを得ないとしても!ということであります。
 その野望を手放さなければ、目先の細かい地道な交渉をめげずに続けるモチベーションも、保たれるのではないかと思いつつ、お手伝いを続けて行きたいなと思っておる次第です。