宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

マンガ編集という仕事

 今日7日から授業が始まったわけですが、新年最初の講義「比較情報表現論」は、特別講義ということで、学外からゲストの先生をお迎えしてのお話でした。
 この「比較情報表現論」、今年度はマンガ研究入門、ということで、いままでいろんな大学でやってきたマンガ関連の講義のネタにほとんど頼らず、一から、講義録を本にすれば入門書ができるような体系的なものにしようと試みています。
 で、前回から「マンガを作り、売るとはどういうことか?」ということで、マンガ産業論、マンガ編集論に触れているんですが、前回中野晴行さんの『マンガ産業論』に即して全体の概要をお話ししたうえで、今回、残念ながら昨年末に休刊になってしまった『コミックガンボ』の副編集長であった斎藤宣彦さんにおいでいただいて、マンガ作品、およびマンガ雑誌やマンガ単行本ができる過程における編集者の役割について、お話しいただきました。
 講義のお願いをしたのは9月だったので、まさか、『ガンボ』の始まりから終わりまでをお話しいただくことになるとは思わなかったのですが、結果的に、今、斎藤さんの話に対するニーズがものすごく高まっている状態の中で、講義をしていただくことになりました。
 もちろん、あくまで講義の内容はマンガ編集という仕事について、実際、マンガ雑誌は具体的にどのように作られているのか、編集者はいかに多岐にわたる仕事を並行してやっているのか、一つの連載作品の企画の立ち上げや、連載中の作品との関わり方はどのようなものか、そうした一連の仕事の中で編集者に求められる力とはどのようなものか、といった包括的なものでした。もちろん、事例としては『ガンボ』でのご自身のお仕事が中心になったものの、決していわゆる内幕暴露的な内容ではなく、単に自分が読んでるマンガ雑誌やマンガ作品はどんなふうに作られてるんだろうという学生たちの素朴な疑問から、出版業界、あるいはその他のマスコミ業界を目指している人の突っ込んだ疑問にまで、広く深く応えられるような、本格的なお話をしていただけたと思います。そしてその中で、『ガンボ』がやろうとして果たせなかったことの、今日のマンガ産業における意味についてもお話しいただけました。
 いやー、マジでこれ、出版業界セミナーみたいなものとしてでも全然成立するし、相当金とっても何にも文句言われないよなと思いました。つか、北九大生、授業料の中にこの講義が聴ける権利が含まれてたなんて、すげーラッキーじゃねえの、とも思ったのでした。
 あんまり具体的に詳しく話の内容を書くのももったいないんですが、マンガの編集者というのは、映画やテレビドラマでいえばディレクターであって、まさに作品のディレクション(方向づけ)を行うのが仕事で、従ってそこで求められる力は、まずは「最終形をイメージする力」であるのだけれど、これからのマンガ出版においては、出来上がった最終形としての作品や雑誌を、どのように売っていくか・流通させるかまでを視野に入れたプロデューサー的な役割を求められていくだろうというのが、一つの結論だったかと思います。作品を作るだけでなく、作品の「出口」をどう作るかまで考える、という言い方をされていて、これは、クリエイティブな仕事全般に当てはまる話でもあるので、学生たちの感想を見ても、そこがやはり一番印象的だったようです。
 『ガンボ』に関しては、斎藤さんはあくまで作品と雑誌を作る、というところにしかタッチしておらず、この雑誌をどのようにビジネスとして成立させていくか、という経営面にまでは関与できなかったのが、ご自身、かつてオンライン書店bk1で働いておられた斎藤さんとしても、非常に残念だったとのことでした。


 で、講義後、夜は学生たちと斎藤さんを囲んでの懇親会。『ガンボ』にまつわる話だけでなく、フリーの編集者としてのキャリアの中でのお話、夏目さん竹熊さんたちの『マンガの読み方』への参加の経緯や、マンガ評論家としてのお仕事等々、さらに深く、あんなことからそんなことまで、うーんほんとは徹夜で聞きたい!という感じのお話を、1次会、2次会と、終電ぎりぎりまで、お聞きしたのでした。
 斎藤さんとは、東京時代に漫画史研究会でご一緒して以来のお付き合いで、結構長いのですが、これだけまとめてじっくりいろんなお話が聞けたのは初めてでしたので、僕にとってもほんとに勉強になり、また刺激になりました。斎藤さん、本当にありがとうございました。昨夜から打ち合わせと称して3食ご一緒したんですが(いや、もちろんんほんとにちゃんと打ち合わせしたんですが)、まだまだご案内したいうまい店、ありますんで、ぜひまたの機会においで下さい!
 あ、ちなみに、

ニッポンのマンガ (アエラムック―AERA COMIC)

ニッポンのマンガ (アエラムック―AERA COMIC)

 このムックの監修も斎藤さんなので、これにまつわるお話も聞けましたよー。